2021.11.30
基礎シリーズ 資産運用と投資アドバイスの「いろは」(2) なぜ分散投資が重要なのか②:投資地域の分散
基礎シリーズ梅本 亜南
本コラム『基礎シリーズ 資産運用と投資アドバイスの「いろは」』は、弊社の若手アドバイザーが資産運用や投資アドバイス業務などについて、日常業務の中からの気づきについて書き留めたものです。基本的な内容のものが多いので、公益法人・学校法人の資産運用だけでなく、個人の資産運用の初心者にも、お気軽に読んでいただけると思います。
前回の振り返り
前回は、資産運用において、なぜ分散投資が優れているのかという点を、「将来の不確実性」という側面から確認しました。すなわち、複雑に変化する市場の将来を予測することは、特に、人的、時間的、経済的な制約の中にある投資家にとって、非常に困難なことであるため、特定の市場に賭けるのではなく、幅広い資産、市場に分散投資を行うことが合理的な選択肢であると考えられるのです。
今回のテーマ
さて、今回は、「市場は不確実である」という前提から更に一歩踏み込んで、不確実な市場環境における資産運用の「リスクとリターンの調節」という観点から、分散投資の有用性を確認します。地域、資産の2つの要素のうち、今回は、投資する「地域」において分散を考慮することで、リスクを調節しながらのリターン獲得を図ることができ、結果として継続的な運用しやすくなるということを考えます。
投資対象とする地域の分散によるリスクリターンの調節
まず、投資する地域を分散することによって、特定の地域が抱える固有のリスクが運用資産へもたらすインパクトを軽減しながら、市場の成長の果実(=リターン)を享受する可能性を高めることができます。さらに、それは公益法人・学校法人が、長期にわたって資産運用、ひいては事業を継続していけるということを意味するのです。
ここで、REIT市場を例にとりましょう。地震大国といわれる日本のREIT市場にポートフォリオの大半を占有させることが非常にリスキーな投資行動であることは、比較的想像に難くないと思います。そこで、日本だけでなくアメリカ、オーストラリアといった他国のREIT市場、さらにはアジアや先進国全体のREIT市場といった具合に、最大限幅広い範囲に分散して投資をすることがより合理的な投資行動であると考えられます。そうすることで、特定の国や地域固有のリスクからポートフォリオを守りながら、投資を継続することが可能となるのです。
ただ一方で、日本のREIT市場が今後10年を通して高いパフォーマンスを見せるかもしれないという可能性(=リスク)も考慮しなくてはなりません。実際のところ、将来どの市場のパフォーマンスが一番優れるのかについては誰にもわからない(=「将来の不確実性」)という原則に立ち返れば、例えば、地震のリスクがあるかもしれないからといって、「日本のREIT市場をポートフォリオから除外する」という選択も、しない方がベターだと考えられるのです。特定の地域に資産を偏らせず、なおかつ特定の地域を毛嫌いせず、様々な地域に分散投資をすることでリスクとリターンの間のバランスを取りやすく、結果として資産運用を継続しやすくなるのです。
長期の継続が求められる公益法人・学校法人の資産運用
長きにわたって公益に資する事業の提供という使命を負う公益法人・学校法人にとって、安定的に、そして継続的に収入を確保し、事業を継続することは至上命題ともいえるものではないでしょうか。こうした使命を負う法人にとって、前節で述べたような運用方法は、安定的かつ継続可能な収入の源泉の確保のための、有効な一手段と言えるかもしれません。特定の地域固有のリスクを調節しポートフォリオを保護しながら、かつ成長の果実としてのリターンを漏らすことなく得て資産運用を継続していくためには、限られた地域の資産でポートフォリオを埋め尽くしたり、反対に、特定の地域の資産を恣意的に除外したりするようなことはせず、幅広い地域に分散投資をすることが重要なのです。