2021.11.26
公益法人協会主催のセミナー報告
2021年10月15日に開催されました、
公益法人協会主催の特別講演会の
セミナー報告をお届け致します。
当日は、弊社のマネージングディレクターの粟津久乃が
「公益法人の資産運用の現状―コロナ禍を超えてみえる実態・課題―」
をテーマに講演を行いました。
オンライン参加も含め、公益法人・証券会社関係者120名が参加しました。
2007年と2017年に公益法人協会が実施した
「資産運用アンケート」の結果をもとに
ESG投資の前提となる公益法人の資産運用は
どのような状況にあるのか、コロナ禍の運用状況も
交えて解説を行いました。
(アンケートの詳細は→こちら)
目次
1 資産運用アンケート2017の概要
前提となるアンケートの概要は下記の通り。
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資産運用アンケート2017概要
・対象法人
任意抽出の601法人(財団463法人、社団138法人)中220法人の有効回答。
・質問項目
①資産運用の現状
②運用管理体制・手続きの現状
③今後の資産運用に関連した対応
④今後の見通しと課題
・アンケート集計の際、預金・国債等以外での運用割合の大きさを基準に以下の3パターンに分類して集計
①資産管理型法人
短期資産・公債等以外の運用比率が10%未満の法人(運用に消極的な法人)
②準・資産運用型法人
短期資産・公債等を除いて運用比率10%~70%の法人(ある程度運用している法人)
③資産運用型法人
短期資産・公債等を除いた比率が70%以上の法人(運用に積極的な法人)
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全体の金融資産の構成についての質問では、
2007年と2017年の比較では、短期資産が増えており、
むしろ運用は積極的ではない。
預貯金が大きく増加している一方、
公債に至ってはむしろ減っている、
社債はほとんど変わらず、仕組債は大きく減っている。
これは、2008年のリーマンショックで問題視された
仕組債を控えたことが影響しているのではないか。
2 3つのパターンの法人の運用の変化、進む二極化
―2007年と20017年の比較―
①「資産管理型法人」
短期資産が大きく増えて、公債が大きく減少している。
定款等で格付や期間等の縛りがある中で債券が満期になったが買えない
(買いたいけれども買えない状態)、
運用できる債券がない。預金に資金滞留しているが、
中身を見ても預貯金が増えているだけで、ほぼ運用する気はないと言える。
②「準・資産運用型法人」
短期資産は減っているが、公債について少し頑張って買っている。
ただ公債は利回りが低いので手が出せない状態だと思う。
従ってどうしているかというと、社債を買っている。
また、全体では仕組債が減っている中で、
このグループだけは仕組債や仕組預金が増えている。
この法人は、債券で運用するという中で、どう利回りを上げていくという観点から、
社債、格付を落とす、仕組債に手を出している、
株式等ほかのものの比率を上げている、という状況。
③「資産運用型法人」
短期資産、社債、公債は変わらない。
大きく変わるのは、仕組債を大きく減らしている点。
これはリーマンショックを経験して減らしていこうとしている。
そのほか、外債やファンド、投資信託を大きく増やしている。
積極的に運用を始め、なおかつバランスを取ろうとしている状況がみえる。
安定資産も増やしつつ、
リスクも取り、外債・ファンド等にさらに分散し、
運用内容の多様化を進めている。
結果として、運用の二極化が顕著に表れた。
「①資産管理型法人」は、超保守的な運用を継続。
「②準・資産運用型法人」「③資産運用型法人」は、
預貯金や公債以外に、運用内容の多様化を進めています。
2007年と20017年を比較しても変わらないことは、
「資産管理型法人」の割合が、1/3のままであること。
「①資産管理型法人」は、引き続き消極的な運用。預金に資金を
滞留させているが、少しでも運用益を得ようとする必要がないのかもしれない。
「②準・資産運用型法人」では、外債や仕組債など、少しでも運用益を
得ようとする意図がはっきり表れている。
「③資産運用型法人」は、仕組債など大きく減らし、収益を追求するだけ
でなく、元本リスクにも配慮するというバランス感覚も芽生えていることがうかがえる。
3 運用利回りの実績と目標
運用利回り実績は、運用利回りの低下が進んでいる。
利回り実績の中心帯は、半数が「1%~2%未満のグループ」と「2%~3%未満のグループ」。
これに対して、運用目標利回りは、最も多いのが「1%~2%未満のグループ」。
一定の条件のもとで、
全体の利回り目標の加重平均の推計値は1.83%で、
同実績は1.48%。
理想に対して、現実の利回りは平均で0.4%ほど下回っている。
4 運用の決め方や運用の基本方針の策定等
法人には運用の熟練者がおらず、
運用の決まり方と元となる判断材料の現状では、
主な情報源が証券会社などからの提案にほぼ限定されている。
米国の大規模な団体にはファンドマネージャークラスの運用担当者がいる。
いない財団もあるが、最近では、OCIO(アウトソースCIO)といって、
第三者機関のようなところからアドバイスを受けることができ、
利用が増加している。
ここが日本との大きな違いで、
日本の場合、金融機関からアドバイスを受けるというのが一般的。
商品を選ぶというより、リスク許容度やリターンについて
相談できる広義のアドバイザーが必要だが、
現状は、金融機関の意見に頼らざるをえないことが運用上難しい点。
次に、法人の定める「運用規程」については、
規程無しの法人は、2007年調査比で大幅に減った。
規定を定めたところが多かったのではないだろうか。
ただ、規程の内容となると、
基本ポートフォリオはあまり書かれておらず、
おおまかな枠組みの記載にとどまっている。
投資はリスクとリターン表裏一体で
フリーランチ(ただ飯)はないというのが鉄則。
そういう中で目標とするリターンと取りうるリスクが書かれていないという状態。
運用計画書等(基本方針、ガイドライン、計画書など)
を準備している法人はまだ少なく、
その内容は予算に関連した収益目標など、アバウトで表面的な
数字を期した年度計画書のようなものに留まっているのが現状。
5 今後の運用の割合
このアンケート結果は非常におもしろい。
「①資産管理型」は、預貯金や公債が増える、
「②準・資産運用型」は劣後債と仕組債、外債が伸びると考えている。
この「②準・資産運用型」は、債券運用にとどまりつつ、どうにか利回りを上
げたいという状況が見える。
ただ、劣後債は、運用期間が10年など長いものが
多いので先々の判断に注意が必要。
また、債券運用にとどまりたいという考えは間違いでなく、
元本を守りたい気持ちは短期的には正しいが、
永続的に資産を守って育てるならばインフレ等
のリスクには対応しない点に注意が必要。
「③資産運用型」は、株式、REIT、ヘッジ外債、
海外の債券など、に分散投資したいという意向がみてとれる。
6 コロナ禍を超えてみえる実態・課題への対応
この10年は厳しい運用環境で、急な投資環境の変化、
母体企業の収益の増減、コロナ禍での事業収入の減少等に対して、
考えてほしいことは、
ESGのテーマでもある「持続可能性」というもの。
持続可能な資産運用ができているか、を今一度考えてほしい。
長期的な運用を行うためには基本ポートフォリオが重要になる。
運用割合は正解がなく、それぞれの法人で全く違う。
洋服選びと同じで、最先端のもの、ブランドを追いかけるのではなく、
公益法人はどちらかと言えば長く着られるものを持ちたいのではないか。
資産運用も自らの法人にあわせることが大事。
法人の規模や3タイプの法人ごとに
リスク許容度や目標とする利回りは全く違ってくる。
公益法人の運用規程の参考になるのが、
国から唯一示された資産運用ガバナンスのモデルで
国立大学の「資産運用管理規程」。
(「国立大学法人法第三十四条の三における業務上の余裕金の運用にかかる文部科学大臣の認定基準の一部改正について」)
大学法人が運用に失敗しないようにと
文部科学省が考えた結果がホームページ資料に書かれており、
「流動性を十分に確保する」ことと
「分散投資に努める」こと。
分散して偏りをなくすことと、すぐに売り買いできるような
流動性を確保することは非常に重要になってくる。
リスクには二つあり、ひとつは「個別のリスク」、
もうひとつは「価格変動のリスク」。
投資の神様と言われる
米イェール大学のデイビッド・スウェンセン氏によれば、
取ってもよいリスクは「価格変動のリスク」で、
取っていけないリスクは「個別のリスク」。
「個別のリスク」とは、債券であれば、個別の銘柄によって
利金が出なくなる、元本が棄損するリスク。
「価格変動のリスク」は、短期的にはプラスマイナスあるが、
分散をしていれば長期的にはマーケットが
上昇していく中でプラスのリターンを
生むのではないかというもの。
その次に、「基本方針の策定」があり、
「運用資産の構成」は必ず記載すること。
「基本ポートフォリオ」は、船の航海の指針となるようなものなので必ず作成する。
ロックフェラー財団の基金の運用を担当した
著名な投資家チャールズ・エリスの
「投資は、デートではなく結婚だ。」という言葉がある。
デートというのはその都度商品を選ぶが、
投資は結婚なので生涯を添い遂げるもの、
ということ。
最初に基本ポートフォリオを決めて、
基本ポートフォリオの中に必要なものを
入れていくというのが投資。
従って、商品を選択するのではなくて、
基本ポートフオリオをどう組むかが重要。
自家運用での注意点として、
「集中投資の回避」が書かれている。
これだけ変動が大きくなると、
同じものばかりを買うのはリスクが高いと認識してほしい。
7 最後に
およそ35%の財団が、財源を母体企業株式の配当に依存している。
この母体企業株式の保有理由は、
財団の成り立ちに関わっているとは思うが、
東証の市場改革(プライム市場の創設)によって
少し変化(流動性を確保するために母体企業から売却の要請)
があり、資産の組替の相談をうけたことがあるので、ご参考まで。
資産運用とはそもそも何か、については
『新しい公益法人・一般法人の資産運用』(2017年、公益法人協会刊)をご参照。
以上。