2021.12.11
法人資産の運用を考える(38) もしも、小職が法人内部の運用責任者だったら(6)運用管理の持続可能性を確保する 運用担当者・責任者の確保・育成②
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回は、真に、法人の運用管理の持続性を追求するのであれば、
今の運用担当者・責任者の任期のあとを担う人材の確保、育成こそは、
未来永劫に公益事業を継続しようとする法人の資産運用にとって、
実は最も重要な課題の一つで有ることを指摘した。
そして、「もしも、小職が法人内部の運用責任者だったら」
対応策は以下の3つ選択肢しか無いこと
つまり
①内部人材の育成(能力の引き上げ)
②能力の有る外部人材の法人内部者としての招請
③法人運用担当者・責任者の機能を、実績が有り、信頼できる先へアウトソース
のいずれかであること、また、
①②ケースの場合は、出来れば、彼(彼女)の後任育成も法人内部で同時並行させるだろう
(つまり、法人内部に2名以上の運用チームを編成して、1名を後任として育てる)
と申し上げた。
今回は、もう少し掘り下げてみたい。
以下、運用担当者・責任者の育成と確保に当たって、
彼(彼女)らに必要な理解と能力(1)~(10)を列挙してみた。
【1運用目的・目標の理解】
(1)未来永劫に連続してゆく公益事業支出をファイナンス
【2目的・目標達成の為の運用手段についてのスタンス】
(2)組織として超長期に持続可能な資産運用(主体的な理解、管理が可能なもの)
【3必要な専門知識・能力】
(3)会計・決算、法令などの制約・条件を理解していること
(4)法人固有の収支フロー・ストックの内訳の理解、それら将来リスクの想定ができること
(5)拙著『新しい公益法人・一般法人の資産運用』の
第4章~第7章に記述してあるベーシックかつ体系的な運用知識を
他者に説明できるぐらいに、理解していること
(6)(5)の運用・運用の意思決定基準に関する知識をベースに
少なくとも5年(出来れば10年以上)のポートフォリオ・マネジメントの
実務経験が有ること
(基本ポートフォリオを策定、執行=取引金融機関/条件/コスト・信託報酬などの
検討/条件交渉/選定、モニター、メンテナンスした経験)
(7)起こって欲しくないこと、最悪の投資環境などを想起でき、
日頃から、それへの対応策をいくつか準備できていること
(例え、実際に起こることは無くても)
【4必要なコミュニケーション能力】
(8)投資方針書(運用計画書あるいは運用ガイドライン)の策定とメンテナンス
(9)運用スタッフ、委員会、役員(会)との説明・提案・意思決定・報告についての
ミーティングの事前準備・段取り
(10)運用スタッフ、委員会、役員(会)らの交替、交代可能性への対応・準備
以上の(1)~(10)である。
まず、お気づきの通り、
(5)~(7)という資産運用のベーシックかつ体系的な知識と
それに沿った実務経験を経た人材の確保と育成は、今後の大きな課題である。
更に、組織内のガバナンスに関わる(8)~(10)の機会では
言葉、文章、数字を使った平易なコミュニケーション能力が求められる。
特に、投資戦略や運用内容についての組織内での説明・提案・報告は、
専門知識の無い役員らや運用委員らにも(少なくとも大枠はちゃんと)
理解、意思決定してもらえるよう、平易な表現でのコミュニケーション能力が必須である。
(実は、これらの点については、法人資産全体の運用実務から
法人内コミュニケーション/ガバナンスの実務までとなると
金融業界に籍をおく現役の人材の中を探しても、
経験・実績を備えた人は殆ど存在しないと思われる)
残念ではあるが、本コラムでは、運用担当者・責任者に求められる
理解と能力の列挙に留め、更なる深掘りについては、別の機会に論じたい。
いずれにせよ、法人の持続的な運用管理の為には、
適材と言える彼(彼女)らの確保・育成が極めて重要なカギであることを
ご理解いただけたなら幸いである。