2022.01.13
法人資産の運用を考える(39) 法人の資産運用を支えるロジック(1) 何人も将来は判らない=全ての資産運用は「賭け」である=どう意思決定する?
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
当たり前であるが、我々人間の誰一人として、
将来のことを言い当て続けることはできない。
したがって、将来の価値保全や利子配当収入などの
安定獲得を目指す法人の資産運用においても、条件は全く同じである。
厳密に言えば、どんな資産運用、どんなプロ・専門家とおぼしき人たちが
提案、推奨する投資戦略も、大なり小なり「賭け」の要素が必ず含まれる。
結論から言ってしまえば、どんな資産運用手段や投資戦略も、
詰まる所、そのような「賭け」の度合い=不確実性の度合いが、
相対的に大きそうか、あるいは小さそうかという程度の問題でしかない。
だから、これまで、何かしら金融のプロ・専門家とおぼしき人たちからの
情報、提案、推奨を全面的に参考にされてこられた
法人の運用担当者の皆さんにとっては大変ショックかもしれないが、
これが事実・現実である。
しかしながら、法人経営や法人事業の為には
資産運用のリターンを諦める訳にはいかない。
だから、将来は何人にも判らないという大前提の元、
リターンを求めつつ同時にリスクを低減していかなくてはいけない
という意思決定に直面しているのである。
このような局面での意思決定の仕方についての考察は、
1952年の米国のハリー・マーコビッツ氏の
博士論文「ポートフォリオ・セレクション」に始まると言われている。
彼は、リターンを求めつつ同時にリスクを低減していく為には、
「正しい分散投資」でなくてならず、
それは「正しい理由」によるものでなくてはいけないと考えた。
つまり、リターンを生み出すような「正しい理由」による「正しいリスクの取り方」をしなくてはいけないのだと提唱した。
それまでの資産運用の常識では、
リターンを得る為には、「どの投資対象を売買するか?」
「それらをどのタイミングで売買するか?」で、全てが決まると考えられていた。
つまり、個々の投資家あるいはファンドマネージャーの
“経験”“勘”“運”に頼るしかなかったのである。
しかしながら、学者であったマーコビッツ氏は、
「正しい理由による分散投資」、「正しいリスクの取り方」が
リターンをもたらす筈であると考えたのである。
リターンばかりを見て、追いかけていた世の中に対して、
リスクの方を注目すべきと唱えた彼は画期的であった
(その後、1990年に彼はノーベル経済学賞を授与される)
将来は何人にも判らないという大前提の元、
リターンを求めつつ同時にリスクを低減していかなくてはいけないという意思決定に
直面しづけていることは、昔も、今も、そして将来も変わることは無いだろう。
今日、約200兆円の基金の運用を行うGPIFもそのホームページに
「基本ポートフォリオ」「長期投資」「分散投資」という原則、
運用バックボーンを掲げている。
その根拠が何処に由来しているかといえば、
1952年のマーコビッツ氏の論文「ポートフォリオ・セレクション」以降、
数多くの学者、研究者、実務家によるアイデアと仮説の提唱、
それらの実証研究の積み重ねの歴史に由来しているのである。
次回以降、そんな法人の資産運用の現在を支えているロジックに
ついて辿ってみたい。
同時に今流行の金融商品や投資戦略についての位置づけ、
投資スタンスについても、関連して触れてみたい。