2022.02.15
学校法人の資産運用を考える22 債券投資の基本がわかるシリーズ④リスクは何か
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
前回は、債券管理の王道、「格付」による債券管理の実態を纏めました。
お読みになり、債券管理に格付けをメインに使用することは、難しいと感じた方もいるかもしれません。
では他にどのような債券管理の方法があるのか、考えていきましょう。
さて、債券投資を管理する上で、何が一番大事かというと、
投資の全般にいえることですが、『リスクを管理する』ということが
非常に重要となります。
投資を管理する、というのは、リスクを管理する、と言い換えてもいいくらい
リスク管理が大事です。
では、皆様は、債券を買う時、リスク管理の観点から、
どのようなリスクを引き受けるか、と考えて購入しているでしょうか。
目次
◆投資における2つのリスク
投資を行ううえで、学校法人が引き受ける投資リスクには
大きく分けて2つの種類のリスクがあります。
(ここでは市場に存在するリスクを説明。投資家側にあるリスク等、他については別のコラムに記載します。)
第一のリスクは、市場全体に存在するリスクであり、マーケット・リスクとも呼ばれるものです。
債券市場おいても日々、市場全体の価格というものは動いておりますが、この価格が動くリスクのことです。
そのため、(市場全体の)価格変動リスクと呼ばれることもあります。
例えばこのマーケット・リスクは、価格変動の大きい格付けの低い債券を購入すれば、高まり、価格変動の低い、国債等を買えば、減少します。(デュレーション等でも変わります)
投資において、マーケット・リスクを引き受ける、というのは、(市場全体の)価格変動リスクを受け入れることになります。
リスクとリターンは表裏一体ですが、この種類の価格変動リスクを取る見返りに、利息などのリターンを得ている構造となります。
このマーケット・リスクはマーケットに常に存在するもので、そのリスクを取り除くことはできません。
投資を行う上では、必ず、引き受けるリスクとなります。
そのため、リスク管理が必要となり、管理可能なリスクでもあります。
一方で、第二のリスクは、個々の債券に結び付いたリスクであります。
個別リスク(信用リスク)と呼ばれるリスクです。
購入した債券がデフォルト(債務不履行)してしまう、利息が支払われなくなるなど、それぞれの債券の信用の悪化により受けるリスクが個別リスクです。
この個別リスクは、第一のリスクと違い、必ずしも引き受ける必要もなく、投資手法を考えれば避けられるリスクです。
個別リスクは、運が悪いとデフォルトなどにより、元本が毀損してしまい、見返りは全く返ってこないことがあります。
この2つのリスクは、その性質上、「報われるリスク」「報われないリスク」と呼ばれることもあります。
◆なぜ報われるリスクと報われないリスクと呼ばれるのか
この2つのリスクは「報われるリスク」と「報われないリスク」と
呼ばれることもありますが、
投資コンサルタントで著名なチャールズ・エリスも同様に呼んでいました。
彼はロックフェラー財団の基金も担当し、イエール大学の基金では、投資運用員会の会長にまで選任された人物であります。
彼は、投資をするとき、リスクについて、
「報われるリスク」と「報われないリスク」があり、
なるべく、「報われないリスク」を取るべきではないと語っています。
ここで改めて整理すると、
市場全体に投資をする
引き受けるリスクの種類は、「マーケット・リスク=報われるリスク」だけとなります。
個別銘柄に投資をする
引き受けるリスクの種類は、「個別リスク(信用リスク)=報われないリスク」です。
マーケット・リスクは、(市場全体の)価格が上下に動くことです。
しかしながら、例えば、大きく価格が下に動いても、また復元を繰り返していることが、
多くの実証データからも明らかになっています
(平均回帰という言葉は、このマーケット・リスクについては当てはまると言われています)
つまり、引き受けることでリターン(インカムゲインとキャピタルゲイン)が
期待できるリスクは「報われるリスク」と呼ばれるのです。
一方、個別リスク(信用リスク)は引き受けても、元本が毀損する、
利息が減る、などのリスクは存在し続けてしまい、
万が一、毀損すると戻ることはないことがあます。
つまり、引き受けてもリターンが実現するかどうかはやってみないと判らない、
最後になってみないと判らない、「報われない可能性があるリスク」なのです。
このようなことから、「報われるリスク」・「報われないリスク」と呼ばれるのです。
では、具体的に、「報われるリスク」だけを取る、運用手法にするにはどうすれば良いのでしょうか。
◆取るリスクを「報われるリスク」にするための手法
答えは簡単です。
分散して、存在する市場の全てを購入すればよいのです。
市場全体に投資を行うのです。
今の時代、存在するすべての債券を購入することも簡単にできるようになりました。
インデックスファンドや、ETFを使用すれば世界の債券に分散投資することも簡単にできます。
具体的には、欲しい国、欲しいジャンルの販売される
債券全てを購入できるようなインデックス型の債券型の投資信託や、
債券へ投資をするETFを購入すれば良いのです。
こうした購入の仕方を変えることで、
複数の国債や社債、様々な種類の債券に分散投資が可能です。
投資全般にいえることですが、集中投資は危険です。
債券の銘柄が広く分散された、投資信託やETFにて債券投資をすることで、
一つの銘柄がデフォルトするリスクを僅かなものにすることができ、
さらに途中で売却するときも、流動性が高く、時価で売却しやすくします。
債券の金利が確定している、というメリットは享受しつつ、
債券市場全体の時価が動く、マーケット・リスク(価格変動リスク)を受入れ、
発行体の財務状況による個別リスクを僅かなものにすることができるのです。
個別リスクだけに掛けて、大きな損失を出すようなことも起きません。
◆学校法人がマーケット・リスクを受け入れやすい理由
公益法人全般、財団法人にもいえることですが、
学校法人は、この報われるリスク、マーケット・リスク(市場全体の価格変動リスク)を受け入れやすいです。
これについては、下記の以前のコラムをお読みください。
コラム『学校法人のメリットを活かした資金運用とは②~長期投資に向いている実態~』
https://www.i-fiduciary.co.jp/archives/983
◆マーケット・リスク管理
投資を管理することは、リスク管理を行なうことである、と冒頭に申し上げました。
今回のコラムの意味を理解できた人々は、投資を管理する上では、
報われる投資を行い、マーケット・リスクを管理することが良いということは分かったと思います。
個別銘柄のそれぞれの格付けを管理する必要もありません。
個別銘柄が上手くいくか、の運に掛けることもなく、マーケット・リスクのみを管理すればよいでしょう。
次回は、債券投資に関して更に深く考察していきます。