2022.03.07
ショック時における資産運用の意思決定とチェックポイント ~ロシア・ウクライナショック編~ 運用収入は安定的と言えるか? 運用元本の落ち込みは一時的と言えるか?
梅本 洋一
2022年3月初旬の今、
ロシアのウクライナ侵略 ⇒ 世界の政治、経済・企業活動への影響懸念から、
世界の株式、REIT、債券金利、為替、商品価格が大きく動き始めている。
2年前のコロナショックから現在のロシア・ウクライナショックにまで通じる、
ショック時の資産運用の意思決定とそのチェック項目について触れてみたい。
目次
【2年前のコロナショック時におけるA法人のポートフォリオ運用管理】
A法人は、世界の主要な金融市場と市場平均利子利回り、配当利回りを複製するETF(上場投資信託)を使って、グロバール株式市場、グロバールREIT(不動産)市場、グロバール債券市場に分散投資している。
政策的な資産配分比率は、株式市場15%、REIT(不動産)市場10%、債券市場(外貨建て)15%、債券市場(日本国債あるいは為替ヘッジ外債)60%、と予め定めている。
今般のコロナショックでは、株式市場が平均で約▲30%、REIT(不動産)市場で約▲40%、その他国債を除く社債市場は約▲10%~▲20%も下落した。一方で日米の国債は著しく上昇したのである。A法人のポートフォリオ運用も全体で一時▲10%を超える価格下落に見舞われている
(2020年3月29日時点)。
しかしながら、市場平均価格が下落したとはいえ、何十~何千銘柄から構成される市場平均利回りや市場平均配当利回りの支払いが停止・激減してしまう訳では無い。
A法人が事業に必要とする利子配当の運用収益見込みは、2020年度も変更する必要は無いと考えている。
また、金融市場の平均価格は、リーマンショック時も含めて、浮沈を繰り返しているが、最終的には回復・復元している。今回の価格下落も長い目で見れば、一時的なものと考えている。
したがって、世界の主要な金融市場と市場平均利子利回り、配当利回りを複製するETF(上場投資信託)を使ったA法人のポートフォリオについても、長い目でみれば、連動して回復・復元するものと構えている。
さらにA法人では、大きく下落して資産配分比率の小さくなった株式やREITなどを増やし、そうでない国債やその他債券を減らして、元々決めた資産配分比率まで均衡させるリバランスを始めている。
リバランスは相場観に基づくものでは無く、政策的に決められている資産配分比率に基づいたポートフォリオ運用におけるリスク管理のルールである。と同時に、リバランスは、結果的に、価格上昇して利回りの低くなった国債等の保有比率を一定まで減らし、価格下落して利回りの高くなった株式、REIT(不動産)、その他外債などの保有比率を一定まで増やす、ということでもある。
以上は、2年前のコロナショック時に、ポートフォリオ運用を実施するA法人の対応を紹介したコラムの抜粋である。
当時は、株式市場が平均で約▲30%、REIT(不動産)市場で約▲40%、その他国債を除く社債市場は約▲10%~▲20%も下落した。
しかしながら、2022年3月7日現在までのところは、当時のような暴落が起きている訳では無い。
【ご参考(関連コラム)】
◆2020.03.30 法人資産の運用を考える(18) 番外編:パニック時における資産運用チェック(1) 運用収入は安定的か? 運用元本の落ち込みは一時的か?
◆2020.04.30 法人資産の運用を考える(19) 番外編:パニック時における資産運用チェック(2) 対照的な、パニック時の対応 <A法人とB法人>
◆2021.05.06 法人資産の運用を考える(31) 1年前のコロナ・パニックを振り返る(2) この1年間、運用収入は安定的だったか? 価格下落は一時的なものだったか?
◆2021.06.01 法人資産の運用を考える(32) 1年前のコロナ・パニックを振り返る(3) 対照的な、パニック時の対応だった <A法人とB法人>のその後
【ショック時における資産運用のベーシックな意思決定基準】
そして、今般のロシア・ウクライナショックにおいても、
資産運用についての意思決定基準はなにも変わらない
(正確には、他にもっと上手くいきそうな方法、結果が約束された都合の良い方法が無いという現実に即して、意思決定を続ける以外には無い)。
第1に、過去も将来も、資産運用には、必ずショックは付いてまわる、切り離すことの出来ないものである。何人も、ショック時だけを都合よく避けて、資産運用を続けることは出来ない。甘んじるしかないのである(運用収入を年度事業のサポート、あるいは中長期的な事業基盤と位置付けている学校・公益法人などの場合は、特に、である)。今回のきっかけが、ロシア・ウクライナショックだっただけの話であり、過去の記憶に新しいものでは、リーマンショック、東日本大震災、ギリシャショック・ユーロ危機、コロナショックなど、様々なきっかけでショックは繰り返されている。
第2に、誰にも予測できないことである。今回のロシア・ウクライナショックがどこで止まるか? 政治経済・金融市場のショックは何処まで行けば止まるか? などについて、プロ / アマ、評論家、メディアを含めて誰も判らない状況であることは、ショック時における毎度の共通点でもある。
第3に、いずれは終わることである。今回のショックについても、予測できることは、いつかこの混乱も収束を迎えるであろうということである。おそらく、人類の滅亡や世界経済の終焉までには至らないのではないか、ということである。
【ショック時における実施中の資産運用についてのチェックポイント】
次に、以上の前提で、各法人が実施する資産運用が以下のチェック項目をクリアするか、検証してみて欲しい。
(1)今後、ショックの状態が続いたとしても、運用収入は安定的か?
株式やREITの下落、金利の低下、円高などが続いたとしても、年度事業のサポートする運用収入が比較的安定していれば、ショックの嵐が過ぎ去るまで、やりすごすことができる。
ただし、今のところ運用収入に影響が無くても、ショック状態が長引いた場合、徐々に業績悪化⇒減配や格下げ・デフォルト、あるいは金利低下⇒再投資利回りの低下、などの影響を大きく受ける資産内容に偏っていないかのチェックも必須である。
(2)ショックによる、資産価格の下落は一時的なものであると、客観的に言えるか?
ショックの嵐が過ぎ去れば、復元・回復することが期待できる“一時的な落ち込み”であれば、法人の中長期的な事業基盤は、依然として守られていると言える。
ただし、それが単に市況に連動した一時的な落ち込みなのか、個々の株式やREITの業績悪化あるいは個々のファンドマネージャーの運用失敗による“復元しない恐れのある落ち込み”なのか、では大きく異なる。後者であれば、中長期的な事業基盤は毀損してしまうことになる。また、円安などの為替変動のみに期待したクーポン・価格の回復は、個々の株式やREITの場合と同様な、“運”を必要とすることにも留意が必要。
以上の(1)(2)のチェック項目について概ね「イエス」であれば、
どんなショックが来ようとも、嵐が過ぎ去るのを待つだけである。
更に、前述のA法人の様なポートフォリオ運用の準備が
整っている法人においては是非、このようなショック時を
『市況下落=利子配当利回りが高くなった株式(市場)、REIT(市場)、債券(市場)を
新たに運用ポートフォリオに仕込む【好機】』と捉え、そのようなチャンスを
伺っていただきたいもので有る。
また、(1)(2)のいずれか、あるいは両方が「ノー」の法人には、
今のショックとは、実行中の資産運用の問題点を全てあぶりだしてくれる改善の機会なのだと、前向きに捉えて欲しい。