2022.07.13
法人資産の運用を考える(44) 法人の資産運用を支えるロジック(6) 学説・実証研究を踏まえた、アクティブ運用の選択時の留意点・チェックポイント
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回のコラムは、米国ウィリアム・シャープ博士が1964年に提唱した学術仮説、
CAPM(Capital Asset Pricing Model 資本資産評価モデル)の実証研究について触れた。
明らかになったことは、
流動性があり市場価格での取引が活発な金融市場においては、
その中の一部の銘柄の取捨選択や売買タイミングを計っても
(追加的なリスクを取っても≒積極運用、アクティブ運用)、
金融市場全体(全部の銘柄を取得し、売買しないで保有し続ける≒受け身運用、パッシブ運用)
の運用成績に勝つこと(超過収益を得ること)は困難であるという現実であった。
むしろ、運用期間が長く成れば長く成るほど、負ける確率が高くなることを示すものだった。
このように理論的に積み上げられた学説と、積み重ねられた実証研究に対抗できるような、
反証(同じレベルの理論構造を有する対抗学説と実証証拠)は、
今のところ、他に見当たらないのが現実である。
誤解してはいけないのは、一連の学術・実証研究は
「最適な運用手法はこれだ」と提唱するものでは決して無い。
様々なタイプの運用手法について
「個々の投資家にとって最適な意思決定を下す為の示唆・留意点を提供すること」
に本当の価値が有るのである。
つまり、投資家としてどのように意思決定すれば、よりベターな結果が期待できそうか?
常にそのような意思決定に直面する投資家に対して、
基準(ベンチマーク=測量をする際の、水準点を指す用語)を提供する。
当たり前であるが、将来のことが予測できる人など、この世には存在しない。
どんな資産運用においても絶対、完全、上手い話などは無い。
この点についてはアクティブ運用もパッシブ運用も厳密に言えば同様である。
しかしながら、この2つの選択肢が目の前に有り、
それらにまつわる学術・実証研究についても知り、
理解していた場合、個々の投資家にとってどちらを選択するのがベターか?
何に留意すべきか?
について、重要な示唆を我々に与えてくれるものである。
例えば、もしも、投資家がアクティブ運用の方を選択しようとするのであれば、
以下の留意点・チェックポイントを明示してくれるのである。
【アクティブ運用の選択時の留意点・チェックポイント
=意思決定基準(+実際にそれらに対応出来る能力が投資家に備わっているか?)】
- 追加的なリスクを引き受けることになること、
- それでも市場全体の運用成績を上回ること(超過収益を得ること)は確率統計的に難しいこと、を十分理解した上で選定に当たらなければならない。
- ①②のリスクを取ってまでアクティブ運用しなくてはいけない投資家側のそもそもの理由とは何か?
- 投資家がする選択が成功する確率が高いと言える根拠とは何か?
- 見込み違いかどうかのチェック、モニターの基準はどうやって行うのか?
- 見込み違いだった場合にどんな対応策を準備しておくのか?
- これら全てについて説明、実際に対応できる能力が、投資家側に備わっているのか?
このような意思決定基準と留意点が明示できるようになったことは、
過去の学術・実証研究の大いなる成果なのである
(ESG投資やグリーン投資なども含むアクティブ運用=任意の条件・基準で特定の銘柄を市場全体の中からスクリーニング、取捨選択する投資戦略については全て当てはまる)。
他人を鵜吞みにせずに、まず投資家自らが理論と事実を理解した上で、熟慮すべきなのである。