2022.08.13
法人資産の運用を考える(45) 法人の資産運用を支える ロジック(7)学説・実証研究を踏まえた、非流動資産・オルタナ投資の選択時の留意点
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回のコラムは、学説・実証研究を踏まえた、
アクティブ運用(金融市場の中から一部の銘柄だけを取捨選択したり、
売買タイミングを図ったりすることで金融市場の平均以上の運用成績を目指す)
の選択時の留意点・チェックポイントを紹介した。
資産運用についての長年の学術・実証研究の語るところによれば、
流動性があり市場価格での取引が活発な市場においては、
優秀なファンドマネージャーやアナリスト達の収益機会の争奪競争によって、
あらゆる情報は短期間で市場価格に織り込まれてしまう。
収益機会が短期間で逓減してしまうことで、
長期的にわたって競争優位に勝ち続けること
(市場平均以上の運用実績=超過収益の獲得)が困難であるという
数多くの実証が示されている事を説明した。
そうなると、流動性が無い、市場価格が無い投資マーケットに
超過収益の機会を求めることも当然一つ選択肢となってくる
(今日、私募REIT、未公開株ファンド、インフラファンド、
その他のオルタナ投資などが生まれた元々の原因は、
学術・実証研究が示す、あがらい難い検証結果なのである。
そういう事も知らない、よく考えないで、誰かに勧められるがままに、
オルタナ投資している投資家が殆どでもある)。
しかしながら、流動性の無い、市場価格の無い投資マーケットでは、
そもそも十分な分散投資をすることが技術的に難しい。
だから運用実績の如何は、私募REIT、未公開株ファンド、インフラファンド、
その他のオルタナ投資に含まれる投資案件を取捨選択して、
運用するファンド・マネージャー個別固有の能力、手腕(運?)に
ほぼ100%依存することになる。
ここでも学術・実証研究は投資家が意思決定する際の有効な示唆を与えてくれる。
例えば、もしも、投資家が非流動資産・オルタナ投資の方を
選択しようとするのであれば、以下の留意点・チェックポイントをクリアしないといけない。
【非流動資産・オルタナ投資の選択時の留意点・チェックポイント
=意思決定基準(+実際にそれらに対応出来る能力が投資家に備わっているか?)】
①流動性が無い、市場価格が無いというリスクを追加的に引き受けることになること、
②投資案件を取捨選択して、運用するファンド・マネージャー個別固有の能力、手腕(運?)に、ほぼ100%依存することになること、
③ ①②のリスクを引き受けても、それに見合う超過収益を得られることを示す一般的なロジックとそれを裏付ける十分な期間、十分な量の実証データは存在しないこと、をよく理解した上で選定に当たらなければならない。
④ ①②③の追加的なリスクを取ってまで非流動資産に投資しなくてはいけない投資家側のそもそもの理由とは何か?
⑤投資家がする選択が成功する確率が高いと言える根拠とは何か?
⑥見込み違いかどうかのチェック、モニターの基準はどうやって行うのか?
⑦見込み違いだった場合にどんな対応策を準備しておくのか?
⑧これら全てについて説明、実際に対応できる能力が、投資家側に備わっているのか?
非流動資産・オルタナ投資は(前回コラムのアクティブ運用投資もほぼ同様だが)、
これらの意思決定基準に明快に回答でき、かつ実際に対応できる能力がある投資家
だけがプレイできるゲームであることを、我々に示唆してくれる。
これこそが学術・実証研究が我々にもたらした最大の貢献なのである。
他人を鵜吞みにせずに、まず投資家自らが理論と事実を理解した上で、熟慮すべきなのである。