2022.12.17
法人資産の運用を考える(49) 法人の運用責任者(CIO)の確保と育成を考える(3) 運用責任者(CIO)の確保・育成の留意点【専門知識・専門能力編②】
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回は資産運用責任者(CIO)に求められる専門知識・専門能力について列挙した。
(年金)コンサル(その他一般の金融機関サービス)に頼る場合の留意点について、
列挙した同じポイントから比較したい。
著者の金融業界における長年の実務経験からも思い当たるのだか、
まず、前述のコラム『法人の資産運用を支えるロジック(1)~(8)』で
紹介した学術・実証研究が示している事実、
およびそれらに基づいた意思決定の基準の意味を
知らない、深く理解していない、精通していない人材は
業界内でもかなり多いと思われる
(あるいは、個人としては理解していたとしても所属する
会社の営業方針でそれらを封印して日常業務に当たっている
人材の数も少なくない印象である)ので注意が必要である。
提供する定量分析・投資戦略、ポートフォリオ、ファンドが
他より優れていると提案するのが彼らの主たる仕事である。
だから、学術・実証研究が示している事実を全て無視したとしても、
彼らの所属する会社だけは、他に勝る提案ができるという
建前でないと顧客に対して優位に仕事(営業)を推進することはできない。
時には、彼ら自身も顧客に薦めている提案の内容を
よく理解していないのではないかと疑われることも多い。
しかしながら、さも当然のごとく、
難しい用語を使った難解な説明で、
複雑な提案で自社優位に営業したがる傾向は否めない
(そのようなアクティブ運用、ESG投資、非流動性資産・オルタナ投資
などの推奨・提案にも十分留意すべきと考える)。
また、意外かもしれないが、組織の資産運用責任者(CIO)として、
包括的なポートフォリオ・マネジメントの実務経験を持つ人材は
金融業界にも殆ど存在しない。
彼らの主な仕事は、定量分析の提供、個別の投資戦略や
ポートフォリオやファンドの推奨などに留まる
(⇔一方、組織の資産運用責任者(CIO)の仕事、
目くばせしなければいけない範囲は、
金融業者がカバーするそれよりもずっと広範囲に及ぶ)。
例えば、(年金)コンサル等では、
個々の投資家の実際の取引の条件/コスト/交渉までは関知しない。
また、大手金融機関サービスでは、自社かその系列金融機関に
口座開設することが前提となっているので、
執行=取引金融機関/条件/コスト・信託報酬などの検討/条件交渉/選定の余地は
殆どないのが普通である。
更に、投資戦略やポートフォリオやファンドについて、
「起こって欲しくないこと」「最悪の投資環境」などを想起してみるという、
運用責任者(CIO)として必須の資質・アドバイスも彼らには
期待できないかもしれない。
なぜなら、業者が顧客に対して推奨・誘導したい提案に対して、
潜在リスクまで想起できてしまうことは、営業活動の障害になってしまう恐れがあるからだ。
これも著者の実務経験から思い当たることだか、潜在リスクなど
そもそも存在していないものとして、あるいは僅かな可能性に
気付いていたとしても、営業上の理由から、そもそも社員への
教育・研修・情報・その他考慮すべき事には含めない所属会社も
結構あるように思われる
(それ以上のことは個々人ベースの意思と研鑽と能力に委ねられるのが普通のようである)。
あるいは、個人的には潜在リスクの想起力は持っていても、
営業的な理由から、顧客の前では自ら封印せざるを得ない状況が
作り出されてしまっているケースも案外多いように感じる。
このように、法人の運用責任者(CIO)と、
【C】(年金)コンサル(その他一般の金融機関サービス)とでは、
「起こって欲しくないこと」「最悪の環境」の意味がそもそも異なると
思われることにも留意が必要である。