2023.01.11
学校法人の資産運用を考える33 債券投資の基本がわかるシリーズ15纏め
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
ここまで債券投資の基本がわかるシリーズを続けてきましたが
債券に関しては纏めをしていきましょう。
◆学校法人が資産運用を行い、結果、得たいことは何か
では、学校法人が資産運用で得るべき目標について考えましょう。
ある年金基金で著名な投資家が、
学校法人にとって投資方針を定める場合、重要な基準がある、と語っていました。
それは
①事業計画と予算の策定上、インカム収入は予測可能なものであるべきである
②組織の健全性のため、インカム収入・資産は長期間に渡り、購買力を維持できるものである必要がある
この2点は非常に重要であると語っているのです。
上記の①を可能にするためには、債券投資というのは非常に優れているでしょう。
金利も期間も確定し、100円の単価で投資をすれば、100円の単価で償還されます。
予見可能性は高いです。
しかし、国内の低金利下では、国債では利回りが足らず、
債券だけを選び続けると、過去のコラムより
信用リスクなどを追加で取る状況に陥りやすいこともわかりました。
また外国債券を勘案したとき、為替の変動幅も大きいものであります。
2022年1月から、2022年11月でおおよそ対ドルの為替だけで、
20%程度の価格変動があります。
今回はまだ円安なので、良いですが、
円高に動けば為替損で、数年の利回りなどは、たった11か月で飛んでしまいます。
では、①を実現すれば、どうすれば良いのでしょうか。
ここではポートフォリオ運用について詳しく述べませんが、
簡単に纏めるならば、債券だけの運用を辞めて
実体経済の株式・不動産・債券の収益の源泉に広く分散すれば
(いくつかの会社が倒産する個別のリスクだけに掛けることなく)
実体経済全体からの平均インカムを得ることができ
インカム収入をある程度予想可能なものにできるでしょう。
ここで注意すべきは何度もこのコラムで申し上げていますが
個別の債券・株式・不動産に偏ってはいけないのです。
あくまで、市場平均を勘案して、全世界に分散投資を行なえば、
その総和から出るインカム収入はある程度、予見可能であるという点です。
これを行うことで、合わせて、世界分散投資をすることにも繋がります。
現状(2023年1月時点)、このように世界分散投資を行えば
3%程度の安定した利回りを享受することも可能でしょう。
また市場平均の利回りという常識を知れば、それより高利回りのようなものには
リスクがあることも理解できるでしょう。
学校法人が世界分散投資を行い、
債券の持つメリットを最大に活かして保有するならば、
永続性も担保され、②の長期的な投資元本の保全、購買力の維持にも繋がります。
◆債券だけの運用から次への一歩
債券だけの運用、特に個別債券が如何に怖いかは、ここまでのコラムで述べました。
そして、債券だけの投資を辞めるならば、バランスよく、
世界分散投資を行い、市場全体の平均利回りを享受し、
価格変動を学校法人が許容できる範囲に設定した
ポートフォリオを作成することが必要になります。
この作業はなかなか簡単なものではありません。
学校法人が何%の利回り設定とするのか、
どの程度の価格変動幅を許容することを決めるのか、
この過程には、学校法人にも知識が必要になります。
そのため、運用担当者が資産運用の知見を高めることは重要であります。
リスク管理できる「人材」を育てることは目指さなければならないでしょう。
もしくは金融のプロ(自社の商品を売るのではなく、皆様の立場で
皆様のポートフォリオを考え運用を考えてくれる人)
にアウトソーシングするかの選択になるかと思います。
また、規程・定款がそもそも格付けの高い債券運用しかできないケースも多いでしょう。
この場合は、規定・定款の見直しが必要となります。
ポートフォリオ運用をするための指針として、
新たに投資方針書の策定なども必要になるかと思います。
これらの整備は実務的にも大変です。
色々な変化をもたらす中で、
運用担当者から、理事会へ、学校組織全体が納得・理解できる方向に
資産運用を梶切りする、皆が理解できる状況にあることが非常に難しいものですが
この一歩一歩が非常に重要になります。
◆少子化に直面する今、何ができるか
債券運用だけから世界分散投資への舵切について最後にお話をさせてください。
もし、少しでも資産運用の状況を変えてみたい場合は、
大胆な梶切りをするのではなく、少額からのトライを検討してみてはいかがでしょう。
例えば、100億円資産があるならば、30億なのか、10億なのか、5億なのか、分かりませんが
5億円でスタートしても5億円の世界分散ポートフォリオは作成可能です。
ならば、何も動かずにいるより、「お試し」でも行動を移し、
本当に予見可能な利金が継続して出るのか
継続してみた結果、購買力を向上させているのか
皆様の学校法人が最初に想定された価格変動が許容できるか、
などを実際に体験されてみてはどうでしょうか。
年間の出生数が80万人を切る、超少子化は既に訪れています。
ここからの10年何もせず、時が過ぎていった場合、生徒数が増えない中で
もし、必要に迫られて、保有の資産を取り崩して使ってしまったら、
もう、この少子化では、資産を増やす(リカバリー)はなかなか難しいでしょう。
資産運用には時間が必要です。
無理なく運用するためにも、今ある資産を効率的に働かせ、
時間を味方につけ、皆様の学校法人の財務基盤を強固なものに
できるよう、少額の一歩でも舵切を考えてみてはどうでしょうか。