2023.01.05
法人資産の運用を考える(50) 法人の運用責任者(CIO)の確保と育成を考える(4) 運用責任者(CIO)の確保・育成の留意点【コミュニケーション能力】
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
組織の資産運用責任者(CIO)には、
これまで紹介した専門知識・専門能力の他にもう一つ、
絶対に欠かせない能力が有る。
それは専門知識・専門能力をアウトプットして、
組織にちゃんと伝え、組織をリードし続けられるコミュニケーション能力である。
組織には資産運用と管理のガバナンスのカギとなる機会が存在する。
そのような機会において、「言葉」、「文字」、「数字」を使った
平易なコミュニケーションが必須となる。
なぜなら組織の誰も理解できなければ、
組織としては管理できていないということ、
つまり、ガバナンスが機能していないということだからである。
資産運用実務と組織の意思決定との触媒の役割を果たすのは、
資産運用責任者(CIO)以外には有り得ないのである。
【資産運用責任者(CIO)のコミュニケーション能力が問われる機会の例】
運用規程、投資方針書(運用計画書あるいは運用ガイドライン)の策定やメンテナンス
運用スタッフ、委員会、役員(会)との説明・提案・意思決定・報告および、それらについてのその事前準備・段取り
運用スタッフ、委員会、役員(会)らの交替、交代可能性への対応・準備など、平易なコミュニケーション、いかに組織に理解してもらうかの考慮、段取り
など、資産運用責任者(CIO)としてのコミュニケーション能力を
発揮すべき機会は非常に多い。
特に、投資戦略や運用内容についての説明・提案・報告は、
役員らや運用委員らに(少なくとも大枠はちゃんと)理解、
意思決定してもらえるよう、平易な表現できなくてはいけない。
当たり前であるが、そこには虚偽、誤解・曲解の種を含んでは絶対にいけない。
言い換えるならば、資産運用責任者(CIO)は、
組織へのこのようなコミュニケーションの積み重ねを通して、
組織から信頼に値するかどうか常に評価・監督されているのである。
そして、組織と資産運用責任者(CIO)の信頼関係の有る/無し、多い/少ないと、
その継続期間が、実施する資産運用の長期的なパフォーマンスにも
大きな影響を及ぼしているのである。
一方、【C】(年金)コンサル(その他一般の金融機関サービス)に
頼る場合の留意点として、専門用語やデータを多用した
複雑、難解な説明や提案が中心である(前述のとおり)。
複雑、難解すぎるので、当然そのままでは役員(会)への
コミュニケーションには役に立たない。
資産運用責任者(CIO)は、運用委員会や役員への説明・提案の事前段階で、
まず自らが理解し、咀嚼、平易な表現に変換してやるという
触媒の役割を果たすことが必須となる。
ところが、現実はそれすらも難しい。
著者が運用委員メンバーとして(年金)コンサル(その他一般の金融機関サービス)の
プレゼンを聞いてきた経験から言えば、
実は、著者でさえもよく理解できない難解な説明や提案は多い。
判らないなりに、常識と経験値を動員して、矛盾する点、
重要だが説明してなさそうな点を指摘するのが
精いっぱいということも少なくない。
ましてや、金融や資産運用の専門知識や実証データの知識など持ち合わせない
運用委員やスタッフしか居ない法人は、的確な質問もできないまま、
彼らが推奨する提案に受け身に流される以外なくなるのではないかと危惧する。
最悪、役員会、運用委員会、運用スタッフの全員が、
運用実績を含むデータ(数字)と
ファンド推奨レーティング(アルファベットなど)以外では、
彼らの提案・説明を判断・評価する手がかりがない状態になってしまう。