2023.03.16
学校法人の資産運用を考える34 資産価値を守るための株式とは
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
株式というのは学校法人の皆様にとってあまり馴染みのないものでしょう。
寄付で得た株式の管理以外ではあまり接することはないかもしれません。
しかし、資産運用全般において株式は重要なパーツになりますので今回は取り上げます。
結論から先に申し上げると、株式を学校法人のポートフォリオの一部にいれることは
現代の学校法人にとっての財産の資産価値の維持・保全に必要となると考えるからです。
その理由は、このコラムにて株式自体を説明するとともに、特に株式のメリットところでお話ししましょう。
目次
◆株式とは
株式とは、株式会社が資金を出資してもらった人に対して発行する証書です。
そもそも株式会社の資金調達方法(お金を集める方法)は大きく分けて、
負債勘定と資本金勘定がありますが、
資本金勘定にて資金調達する方法が株式となります。
負債勘定⇒①融資(銀行借入)を受ける、②社債(債券)を発行する
資本金勘定⇒③株式発行する
があります。
①融資
株式会社からの視点で融資を考える必要はありませんが、今までの無借金経営が素晴らしいとされる時代とは
異なってきていると感じますので、学校法人の銀行借入れに関しては下記のコラムをお読みください。
②社債
社債は債券の一部ですので、詳しく知りたい方は債券投資の基本シリーズ1~15をお読みください
③株式発行
今回のお題の株式は下記の図のように、企業が株式を発行して調達した資金で、
事業拡大を考え、得た利益を分配する仕組みです。
この仕組み自体を詳しく覚える必要はないのですが、
日本独特の文化で、なぜか「株式は怖いもの」という刷り込みが存在しますので、
株式は決してそういうものではない、ということ認識してほしく、少し詳しく説明していきます。
融資を受ける場合や、社債を発行する場合は、株式会社は返済義務がありますが、
株式によって調達した資金は返済義務がありません。
この返済義務がないところが、「株式は怖いもの」という印象になるのかもしれません。
しかし、株式は、出資した人々とって、お金が必ず返る約束がない代わりに、
いくつかの権利を得ることができます。
①株主総会に参加し決議できる「議決権」
②余剰金の分配を受けられる「余剰金配当請求権」
③「株式を売買できる権利(売買益を享受する権利)」、
会社解散時に残余財産の分配を受けられる「残余財産分 配請求権」
④自社商品・サービスを受け取れる「株主優待を受ける権利」
などを得られます。
学校法人にとっては特に②と③の魅力が非常に重要となります。
その時点の企業活動を通じて得られた利益を株主に配当する「配当金」は
年間のインカム収入得られますし、
株式は売買益を得られる権利を持ち、投資した資金より、
利益(キャピタル)がでて、資産が膨らむ力があるということです。
学校法人にとっては、売買益を積極的に取りに行く必要はありませんが、
評価額として資産を膨らませることはとても大事です。
◆株式は、預貯金と債券と何が違うのか?
株式も預貯金も債券もすべては「投資家が何かにお金を貸す(投資する)」行為であります。
この投資において、それぞれの条件が異なっているだけです。
預貯金
預ける期間も金利も決まっていて、元本が返済条件であり、それも銀行が間に入って、預けたお金をどこかで貸して増やしてくれるので、安心ですね。
債券
預貯金と違って、皆様が「直接」お金の貸し先を選ぶことになりますが、債券の期間も金利も決まっていて、元本が返済条件でもあり、預貯金よりはリスクをとりますが、金利も高くなります。
一方、株式はどうでしょう?
株式
・配当(金利のようなもの)は何%でるか、わかりません。出ないこともあります。
・期間も決まっていなく、元本を返す日も決まっていません。
・元本は増えるかもしれませんが、減るかもしれません。
となります。
こうなると、「株式は怖いもの」と思えるかもしれませんが、
上記の条件があるから結果、
リスクは、預貯金<債券<株式
となり、リスクとリターンは表裏一体ですので
逆に
リターンは、預貯金<債券<株式
となるのです。とてもシンプルな構造です。
もし、上記が違うならば、誰が株式に投資をするでしょうか?
上記順位が成り立つから、資本市場は存在するのです。
この金融の原則は長期間の過去のデータでは普遍です。
この金融の常識を理解することはとても重要です。
つまり、長期でみれば、預貯金・債券・株式一番、3つを比較したとき、収益性が高いのが株式となるのです。
◆株式のメリット
資産が膨らむ力
株式は、債券と比較すると、資産を膨らませる力があります。
GPIFより
結果、値上がり益(キャピタルゲイン)を得られる可能性があり、インフレに比較的強いとされます。
また、株式の面白い効果としては、増配効果があることです。
増配効果
株式は、増配効果があるということを認識されていない日本の人は多いです。
しかし、事実、2022年の全世界の上場企業が株主に払う配当は過去最高の
1兆5610億ドル(213兆円)でした。これは前年比8%増えて過去最高です。
日本人は長期で株式投資を行う文化が少ないので、感じづらい効果なのですが、
この株式の増配効果というものは長期投資では資産を増やす効果があります。
国内だけで見ても、2023年3月における、国内の3月期決算企業を
日経新聞が調査した結果によると、日本における今年度の株式配当ももちろん過去最高でした。
このように株式は、配当がいくらでるか、わからないものですが、
実際は長期でみると、インカムは増えていっているのです。
◆株式のデメリット
〇株式会社が倒産すると投資資金が棄損することがある
〇株価の変動では、売却損(キャピタルロス)が発生することがある。
〇配当・株主優待が滞ることがある
〇外国株式の場合は為替差損が生じる場合がある
株式はそもそも企業には返済義務がありません。
購入した株式は株式市場(未公開株の場合は相対)で売買をする必要がありますが
いくらになるか、株価の将来は全く不明です。
前述したように、これらのデメリットを受け入れるから、リスクが高くなり、
逆に言えば、高いリターンを生みます。
そして、上記に挙げたデメリットですが、
倒産による資産の棄損や、売却損や、配当が滞る、などのリスクは、
ある程度回避する方法があります。
それは資産を一つに集中させず、資産を世界分散することです。
詳しくは別途コラムにて、纏めますが、
1つの株式を買うことは当たり外れのでる「株式は怖いもの」となってしまいますが、
1社、2社の棄損は当たり前という前提で、世界の株式を全て保有すれば、
株式の良いところを享受することができるのです。
どのような商品で世界分散をするかについても、またコラムにて纏める予定です。
◆なぜ、学校法人が株式投資をしなければならないのか
過去、日本だけを見ていくと、預貯金神話が正当化されるかもしれませんが、
現実はそうでしょうか?
少子化の中、学納金の大きな増加が見込めない今、資産を増やす必要があるのではないでしょうか。
また物価上昇を考えインフレに対応しなければなりません。
インフレや、実は預貯金神話が日本の学校法人に与えるダメージについては、
次回以降のインフレについてのコラムで深く述べたいと思います。
学校法人というのは株式会社のように利益を追求するために
資産を保有しているわけではない、利益を追求して、
資産を増やそうとするなどは、本来の目的ではないという人もいるでしょう。
次回以降のコラムにて、インフレについて纏めますので、
資産を膨らませることは、学校法人にとって「利益を追求する過度な運用」ではなく
「資産を守る堅実な運用」であることを説明していきたいと思います。