2023.04.09
学校法人の資産運用を考える35資産価値を守るための不動産投資とは
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
株式に続いて、今回は不動産投資についても考えていきましょう。
伝統的な投資手法として、債券・株式・不動産という3種類がありますが、
先に結論を申し上げると、不動産も株式と同様に
インフレに比較的強い(資産が膨らむ可能性のある)重要な要素を持っていますので、
しっかりと理解してほしい種類になります。
目次
◆不動産投資とは何か
不動産投資とは土地や建物などの投資物件を購入・運用し、家賃収入や売却で利益を得る投資手法です。
不動産に投資をする方法としては、
直接投資(現物投資)・・・直接的に現物の不動産を所有する
間接投資・・・REITや投資信託を使って、間接的に不動産に投資をする
があります。
株式投資と同様に、バブル崩壊時、不動産投資は怖いもの、というイメージがある人もいます。
しかし、株式同様、投資手法を変えれば、不動産投資も堅実な投資の一つとなりますので、
ここから、さらに細かく説明していきたいと思います。
◆不動産の直接投資のメリット
・土地勘がある、空室リスクに対応できる等に自らが不動産に関して優位性があれば高利回りを得られる
・不動産のノウハウがあれば、管理も自分ですることができ、リフォームも自分で手配するなど選択次第でコストを抑えられる
◆不動産の直接投資のデメリット
・纏まった資金が必要。融資などを自分で考える必要あり。
・個人として管理会社等に依頼する場合、管理費などが高くなる場合がある
・流動性が低い
◆不動産の間接投資のメリット
・小額投資が可能
・融資条件や、管理など、不動産を大量に抱えるプロに任せられることで様々なコストダウンが見込める
・投資先の不動産の分散が可能
・流動性が高い
◆不動産の間接投資のデメリット
・自分の好きな不動産に絞って投資をすることができない
・投資商品の上場廃止・償還などがある
以上のメリット・デメリットを勘案すると、公益法人としては、
不動産会社が母体企業でしたり、不動産とゆかりの深い法人以外は、
手間暇も考慮すれば、間接投資をするほうが安心であるでしょう。
不動産投資において分散投資が可能な間接投資にはREITという便利なものがあります。
ここからは、REITについて詳しく見ていきましょう。
◆間接投資で便利なREITとは
REITとは投資家から集めた資金でマンションやオフィスビル、
商業施設などの不動産を購入し、賃貸収入や売却益を投資家に還元する金融商品です。
「Real Estate Investment Trust」の略称で、日本語に訳すと不動産投資信託という意味になります。
尚、海外のREITと区別するため日本ではJapanのJを先頭に付けた、
J-REITという名称で呼ばれることも多いです。
野村アセットマネジメントより
なおREITは制度が決まっており、下記の条件が必須です。
・資産の大半をオフィスビルや商業施設等の収益不動産で運用すること
・収益の90%超を投資家に分配すること
といった一定の要件を充たすことで、実質的に法人税が非課税となる仕組みになっております。
この仕組みのおかげで、きちんと利益が投資家に分配されるようになっています。
◆REITの投資手法
個別銘柄のREITに投資をする
株式で上場している個別のREITを購入します。
これは、個別の1つの銘柄の株式を購入するのと同じですので、証券会社で取引をすることになります。
2023年3月現在ですと、日本に上場しているREITはおおよそ60種類程度ありまして、
一株の投資可能額で5万円前後~50万円以上となります。
個別のREITはホテルに特化したもの、オフィスに特化したものなどいろいろと存在します
ので、もし、日本の中の上場REITに分散投資したい場合は
それぞれのREITを沢山買う必要があり、資金力が必要となります。
まして、世界分散を個別銘柄で行うとなると、さらに相当な資金力が必要となります。
投資信託のREITファンドをもつ
ファンドになっている投資信託でREITを保有する形式です。
投資信託については、別途纏める予定ですので、ここでは詳細は述べません。
不動産投資で投資信託を使う場合、
手数料が購入手数料・信託報酬・信託財産留保額等かかりますので、
個別銘柄のREIT投資や、ETFでの投資よりも手数料が高くなっていないか、確認は必要です。
また、特徴として、投資信託は分配金を運用会社が勝手に決めることができますので、
重要なことなのですが、結果、実体の収益よりも多く分配を行ってしまう商品もあることです。
本来、REITの良いところは、収益の90%以上を投資家に分配するという、
しっかり現実に則した配当であるはずが、投資信託に形式を変えたことで、
実質的な配当とは違うことがあるのです。
投資信託形式のREITは証券会社・銀行にて購入が可能です。
ETFのREITに投資をする
ETFの詳細は別途コラムで説明しますが、「上場投資信託」です。
株式のように売買される上場している投資信託です。
日本においては、例えばJ-REIT型のETFですと東証REIT指数に連動する仕組みのETFなどがあります。
この商品の場合、投資家が一つのREIT型のETFを購入するだけで、
上場しているREITの全銘柄に投資をすることができます。
また、国内のETF(上場投資信託)の中には先進国の不動産に分散投資するもの、
アジアに分散投資するもの、などいろいろなものが存在します。
ちなみに余談ですが、日本から個別の海外REITに投資をすることはできません。
(海外の個別株式は購入できるのに、なぜ、海外の個別REITが買えないのは不思議ですが、
単純に金融庁登録が海外の個別REITに関して、扱いが違い、登録できないから証券会社で
取り扱いができないだけといわれております)
そのため、海外の個別REITを購入したい場合はETFにて購入することになります。
ETFでREITに投資をすることは分散投資をするのに適しています。
また、配当は実質配当となり、実際のREITの中の収益が配当されます。
◆私募REITとは
私募REITというものを金融機関が販売するケースがありますので、こちらも触れましょう。
私募REITは非上場のものであり、少人数に限定して募集します。
基本的には金額が1億円以上の投資スタートが多く、
通常は機関投資家等のプロ向け仕様です。
〇メリット
・価格があまり変動しない
・地方の小さな不動産にも投資可能
〇デメリット
・流動性が低い
・価格を日々管理することができない
・リスク分散がしづらい
◆学校法人に適した不動産投資とは
直接投資をするよりも間接投資をした方が学校法人にとっては適しているのでは、
ということは説明しました。
また、間接投資の投資手法の中でも、メリット・デメリットを勘案すると、
様々なREITに分散できるETFでの不動産投資が適しているかもしれません。
ETFならば実質配当であり、手数料も低く、流動性も比較的高いです。
このコラムでは何度かお伝えしていますが、全ての金融商品を判断するとき、
・商品から出る配当が実際の配当相当であること(過度に分配金を出していないこと)
・手数料が安いこと(長期投資家である皆様には必須です)
・流動性が高いこと(いつでも売買できる、値段がついていること)
・分散投資ができること(個別の何かに掛けていないこと)
・長期で保有できること(償還がなく、投資を長期継続できること)
これらのポイントはとても重要です。
一方、私募REITについては、上記の観点から考えると、
価格が日々動かない(流動性が低い)ことで、評価額が大きく変わることを
避けたい学校法人にはメリットがあるように感じますが、
実際は個別のリスクが高く、学校法人の担当者に目利き力が必要になります。
学校法人の担当者が不動産投資のプロでもない限り、
私募REITのリスク判断しづらく、それだけで分散投資をするには
相当の投資額も必要となるため、あまり学校法人に向いている
投資手法とはいえないでしょう。
◆なぜ学校法人にとって不動産投資が必要なのでしょう
最後に、改めて、学校法人の投資の中に、不動産投資が必要な理由を述べましょう。
学校法人に適した不動産投資として挙げた、
ETFでのREIT投資の特徴を端的にまとめると
★分配金の原資産である賃貸料等が、一般的に物価にスライドする特徴があるため、比較的インフレに強い
★複数の物件に投資して運用するため、リスク分散の効果がある
という点があります。
学校法人にとっては、
この比較的インフレに強い(資産を膨らませる力がある)という特性と、
価格変動が異なるアセットを組み入れる際のリスク分散効果が重要になるでしょう。
また、安定した配当と、他の資産と比較して、相対的に高い利回りも魅力的でしょう。
ETFによる分配金の原資産は、多数の物件からの賃貸料等であり、
必要経費等を差し引いたほとんどの利益が投資家に分配されますので、
安定した分配金を受け取ることができ、相対的に長期に渡り、
債券と比較すると高い利回りを期待することができる可能性が高いです。
3%の利回りも、10年貯めれば、資産の30%に相当します。
ただ、注意点は利回りが良いから、大部分を不動産投資に向けることは
間違いであり、全資産の一部の保有に留める必要があると思います。
以上、今回は不動産の様々な投資手法について触れました。
次回、学校法人が資産を膨らませる必要性がある、インフレの問題について説明しましょう。