2023.04.13
基礎シリーズ 日本国債による基金運用からの転換 日銀YCC政策転換の可能性と運用収入源泉の多角化
基礎シリーズ梅本 亜南
日本国債による基金運用を行っている学校法人・財団法人にとって、特に足元は、グローバル分散投資へと切り替える良い機会である可能性が高い。日銀によるYCC政策転換の蓋然性がこれまでよりも高まっている中、債券価格下落の前に切り替えることで、特に含み益のあるケースで切り替え後の運用原資を積み増すことが可能となる。一方、仮にこのまましばらく政策転換がなされない場合でも、償還後の再投資を検討する局面で、低金利という別の課題に向き合う必要がある。グローバル分散投資により運用収入源を多角化することは、毎年の期間収益を必要とする学校法人・財団法人にとって、安定的な運用収益確保の可能性を高めることにつながる。
◆日銀総裁の交代とYCC政策転換の可能性
2023年4月9日、日本銀行の総裁が黒田氏から植田氏へと交代した。前任の黒田氏の任期が終盤に差し掛かった2022年末ごろには、長年続けられてきた長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)やマイナス金利による大規模金融緩和といった政策が修正されるのではないかという期待が高まり、修正による利ザヤを狙う短期投資家の動きも見られたが、結局、大幅な方針転換は行われないままこれらの政策の行方は植田体制の手に移った。就任会見でも今後しばらくは黒田氏からの方針を継続する考えが示されたため、そうした短期的な利益を狙った投資家は肩透かしを食らった。
YCCとマイナス金利は継続適当、現状維持の姿勢示す-植田総裁 – Bloomberg
一方で、植田氏の過去の発言などから、これまでの日銀の方針に修正を行う可能性に触れる声は依然根強い。2022年末に黒田氏が突如行った国債の長期金利許容幅の引き上げの動きを見ても、日銀のこうした政策修正は、市場に悟られぬよう前触れなく行われており、仮に今後政策を修正する際にも、植田氏や日銀が事前にそういったシグナルを見せる可能性は低いとの声もある。
日銀が金融緩和を修正、長期金利の許容上限を0.5%に引き上げ – Bloomberg
いずれにしても、長期的な目線で資金運用を行っている(行うことができる)学校法人・財団法人にとってみれば、日本国債中心の運用からグローバルに分散された運用へと転換する良い機会であることに変わりないと考えている。
◆政策転換がなされない場合のシナリオ:低金利環境下での運用
仮に、植田体制の日銀下でも暫くの間、大規模緩和政策が修正されない場合、日本国債を保有している学校法人・財団法人にとってどのようなシナリオが考えられるだろうか。このケースで一番の問題になると考えられることは、低金利環境下で債券への再投資を検討しなくてはならなくなることではないだろうか。
低金利環境が継続している今、日本国債の利回りでは十分な年間収益を賄えなくなり、個別社債や仕組債などの様々なリスクをとった運用を行っている法人もあるだろう。こうした環境が継続する中、償還されるたびに運用利回りを確保しながら個別の債券への再投資を検討していくと、必然的に保有資産に占めるリスクの高い債券の比率が高まってくることが予想できる。個別銘柄での債券運用を継続しようとすると、事業規模を維持しながらリスクの高い債券へと運用対象を広げるか、事業規模を縮小しながら日本国債運用を継続していくかを選択しなくてはならなくなりそうである。
◆政策転換がなされる場合のシナリオ:債券価格の下落
一方、政策の修正が行われ、金利を抑え込んでいる緩和政策が解除された場合、これまで抑えられていた債券金利の上昇、すなわち債券価格の下落が起こる蓋然性は高いと考えられる。
学校法人・財団法人の中には、現状、含み益がある状態の国債を保有している法人もいるかもしれない。金利が上昇すれば、こうした含み益は消失する可能性が高い。多くの法人は、満期保有目的で国債を保有しているはずなので、含み益がある場合でも償還まで静観し、額面通りの資金が手元に返ってくることを待つだろう。
それでも、こうした運用手法が一国の金利の動向に大きく作用されることに変わりはない。経済状況や政策判断等によって大きく変化する金利情勢が、債券運用を行う法人の期間収益に与える影響が小さくないことは、多くの運用担当者が直近数年、十数年で実感されているのではないだろうか。一般に元本保証といわれる債券も、学校法人・財団法人の基金運用にとって重要な期間収益の中長期的な安定性という観点からは不透明さのある資産と言える。
◆個別債券運用からグローバル分散投資への転換
個別債券運用が抱える期間収益の不安定さという弱点を考えると、様々な通貨・資産へと分散し、期間収益の源泉を多角化するようなグローバル分散投資が、より学校法人・財団法人には適していることがわかる。加えて、保有する国債に含み益がある法人にとっては、その差益を用いて切り替え後の運用元本を積み増すことも可能となるという点でも、足元は国債運用からグローバル分散投資へと切り替える好機である可能性が高いのではないだろうか。