2023.10.11
法人資産の運用を考える(59) 法人資産運用アドバイス業務の15年間を振り返って(3) 運用担当の役職員の交替 一貫した資産運用の断絶リスクとその回避
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
著者の経営する会社は公益法人、学校法人などの法人資産運用アドバイス業務を開始して15年になる。
15年間で得た教訓についてシェアしたい。
それぞれの法人の資産運用の参考にしていただけることがあれば幸いである。
弊社顧客のポートフォリオは、グローバル株式市場全体、グローバルREIT市場全体、グローバル債券市場全体の価格変動と利子配当利回りのそっくり複製と享受を目指すETF(上場投資信託)の組合せによって構成されている。
そして、そのようなポートフォリオを超長期間にわたり、一貫して堅持することを推奨・アドバイスしている。
一方、法人側の運用担当の役職員には任期があり、どんどん交替されてゆかれる。
実際の例では、弊社とのお付き合いの長い法人においては、運用担当の役員(理事長を含む)と職員の全員が3~4回は交替されている。
そして、新しく着任された運用担当の役員(理事長を含む)や職員の性格・考え方も色々である。
当然であるが、法人の資産運用についての知識・理解・考え方についても様々である。
そのような条件下で、資産運用を超長期間にわたり、一貫して堅持することは、思うほど簡単な事では無いなと、15年間の業務を経て痛感している。
まず、運用担当の役員(理事長を含む)や職員の交替が、法人の資産運用をより適切なカタチに進歩させるケースもある。
例えば、これまで満期保有目的で債券運用しか実施してこなかった法人が、運用担当の職員の交替を機に、債券以外の資産を組み合わせたポートフォリオの構築を検討、実際に実施にこぎつけたというケースもあった。
また、運用収入が不安定な仕組債運用に傾倒していた法人が、運用担当の役員(理事長を含む)や職員の交替を機に、運用内容を抜本的に見なおしたケースもある。
あるいは、株式資産やREIT資産の割合を高めて、より運用資産の長期保全に適するように見直しを行った法人もあった。どの法人も役職員の交替が良い方向に作用したケースである。
しかし、その逆に法人の資産運用の進歩に待ったをかける、後退させるという悪い方向に作用するケースもある。
交替された途端に、運用担当の役員(理事長を含む)や職員とのコミュニケーションがギクシャクしてしまうケースもある。個人のキャラクター的なものも有るので、ある程度はしかたがない。
それでも、新任役職員の個人的な嗜好、考え方によって、風通しの良かった組織風土から、物言えない・逆らえない雰囲気、緊張感の絶えない風土に一変してしまうことも見てきた。
中には、長い時間をかけて組織内で議論を重ねた上で固めた新たな運用計画を、理由も明らかにしないまま、白紙撤回する、立ち消えにさせてしまうという新旧役職員の交替劇のケースも経験している。
このようなケースの理由としては、新任の役職員の前職での個人的に偏った経験、狭い知見、嗜好、キャラクターなどが影響していると推定される。
しかしながら、誰かが、このような条件下であっても、組織の資産運用を進歩させなくてはいけないし、ずっと後退させたままでもいけない。
もしも、それがクリア出来なければ、組織やその事業が衰退する恐れがあるからだ。
それをクリアしてゆくことは資産運用担当の役職員の本来の使命であり、また、彼らを外部からサポートする弊社のような資産運用担当業務の支援業者の使命でもあると考えている。