2023.12.12
法人資産の運用を考える(61) 法人資産運用アドバイス業務の15年間を振り返って(5) 投資方針書(実施中の資産運用について文書、数字による説明書)の策定、共有の重要性
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
著者の経営する会社は公益法人、学校法人などの法人資産運用アドバイス業務を開始して15年になる。
15年間で得た教訓についてシェアしたい。それぞれの法人の資産運用の参考にしていただけることがあれば幸いである。
弊社顧客のポートフォリオは、グローバル株式市場全体、グローバルREIT市場全体、グローバル債券市場全体の価格変動と利子配当利回りのそっくり複製と享受を目指すETF(上場投資信託)の組合せによって構成されている。
そして、そのようなポートフォリオを超長期間にわたり、一貫して堅持することを推奨・アドバイスしている。
しかしながら、ポートフォリオを超長期間にわたり、一貫して堅持することは、口で言うほど簡単なことではない。
金融市場の変化に伴いポートフォリオ価格なども(大きく)変化する事も避けられないし、法人の役職員も交代してゆくことが避けられないからである。
そこで、年度ごとに投資方針書(実施中の資産運用について文書、数字による説明書)を策定し、組織内において共有し続けることが大変に重要性を帯びてくる。
これは、役員会の承認を経ての改廃が必須となる運用規程とは別に準備されるものである。
この投資方針書とは(組織によっては運用計画書、ガイドラインなど呼び方は様々であるが)、現在あるいは来年度実施する資産運用について文書と数字で記述したものである。
一例としては、
(1)ポートフォリオ運用の目的
(2)ポートフォリオ運用の考え方
(3)ポートフォリオ運用の具体的な資産配分割合、ポートフォリオに含めることの出来る金融商品の条件(含めてはいけない金融商品の条件)
(4)ポートフォリオ運用のモニター、リスク管理の方法
(5)その他の留意事項
などが明記される。
法人事業の環境、経済・金融環境の変化に応じて、年度ごとに(あるいは年度途中であっても)柔軟に変更の可否を、運用責任者である役員と事務局スタッフとが柔軟に検討し、役員会に報告・説明する為の文書である。
このような投資方針書の本質的な役割は、組織内において資産運用の考え方について情報共有し続ける為のツールなのである(勿論、運用経過・実績についての説明・報告は別途行うが、それだけでは不十分で、そもそものポートフォリオ運用の背景となる考え方を含めて組織内共有し続けることが長期的な投資の成否のカギとなるのである)。
年度の投資方針書、運用計画書として、修正する可能性の有る事項は(3)ポートフォリオ運用の具体的な資産配分割合の部分だけである(変更しないことも多い)。つまり、(1)(2)(4)(5)については殆ど変更の必要は無い。
しかしながら、少なくとも年1回、運用責任者、事務局スタッフと検討し、役員会に報告説明することで、ポートフォリオ運用の考え方、どのような考え方に基づいて運用を行なっているのか、というポイントが組織全体に共有され、徐々に浸透してゆくのである。
このようなプロセスを経て、ポートフォリオ運用の価格変動や法人の役職員の交替(引継ぎ資料としての役割)などへの耐性を高める。
すなわち、超長期間にわたり、一貫して堅持できる持続性を高め、それが組織に対して長期的な投資成果をもたらすのである。