2024.01.15
学校法人の資産運用を考える43 学校法人の制約条件に合致する運用とは②
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
前回は学校法人特有の制約条件について挙げてみました。
今回はそのような制約条件のもと、どのように対応すべきか、また、考えられる運用スタイルは何かを考えていきます。
目次
◆制約条件を簡単に纏め
①会計・決算上の制約条件
会計は取得原価主義であり、債券は満期保有目的ならば決算上、損失計上する必要もなく、債券運用をメインとしたくなる背景がある
②人員の制約
金融のプロがいることは少ない中、リスクを取る(価格変動がある)運用をしづらい。組織には理事会、教授陣、事務局、組合、様々な人員が存在し、総意を纏めることも困難であり、将来の資産運用における潜在的にあるリスク回避より、在任中の価格の安定性に焦点がいくこともある。
③相談相手の金融機関のビジネスモデル
身近に相談する金融機関(証券会社・銀行など)は投資家(学校法人)が負担するコスト(手数料・管理料)で成り立ち、学校法人の資産運用の利益を100%追求したアドバイスではないこともある。例えば債券(仕組み債含む)の販売は債券単価に手数料を含めるため、顧客側には手数料が開示されず、金融機関としても販売しやすい。
◆課題
こういう背景の中では大部分を債券運用にすることは運用スタイルとして適合していると捉えられることが多いでしょう。
しかし、国内金利上昇(債券単価の下落)の可能性、物価・賃金等の上昇も考えられる中では、資産の大部分が債券であり、資産自体が膨らむ要素のない運用にとらわれることは学校法人の永続性を勘案すると難しい局面になってきています。
では、この中で制約条件を解決しながら運用スタイルを模索するにはどうしたらよいでしょうか。
◆制約条件を解決する方法
①会計・決算上
資産価値を実質価値で長期に渡り維持するためには、債券運用だけではなく、ある程度のリスク(価格変動)を取り、資産が膨らむような資産運用が必要になります。
ただ、会計決算上、リスクを取る資産運用をする場合においても、財務への影響の少ない資産運用のスタイルを検討する必要があるでしょう。債券の利金のように学校法人の運営に使用できるインカムも必要です。
例えばETFでの運用スタイルの場合はどうなるでしょうか。配当に関しては投資信託とは違い、実体の配当のみが分配されるため、会計処理上、学校法人の収益として全額カウントすることができます。また、学校法人は簿価会計が基本となるので、ETFを使用して世界分散投資のポートフォリオを組んでいた場合でも、合計の損益が財務諸表の注記に記載されるだけですので、財務諸表への影響も比較的少なく、投資環境の変化の中でも継続しやすくなります。
もし、大幅な価格変動が起きた場合も、個別の債券や仕組債と違い、ETFの場合、同一銘柄を追加購入することにより簿価を引き下げることも可能になります。
②人員の制約
人員の制約に対応するには、2つの要素があると感じます。金融知識を持つプロとしての要素と、もう一つは学校法人の内部調整のようなコーディネートの要素です。
金融のアドバイザーに求めることは金融知識(アセットアロケーション、金融の資産配分、金融商品選択等)が重要と思う方は多いかもしれません。
しかし、実際は学校組織の内部調整も非常に重要だと感じます。アドバイザーの存在意義は学校法人という組織を理解し、様々な意見をくみ取り、資産運用としての土台を築いていく過程に大きな意味があると感じます。
内部で調整できる人材(組織内の取り纏め、金融知識を持ち合わせた上に対応できる方)がいるならば、良いですが、そうでなければ第三者からアドバイスを求めることも必要かと感じます。
その場合、金融知識を持つプロであることに加え、学校法人の状況(今後の事業計画等)を理解でき、法人に負担にならない、法人ができる範囲でのベターな資産運用のアドバイスを行う(組織が納得できる、理解できる資産運用の形式におさめていく)ことができる第三者を探すことです。
そうでなければ結局のところ、様々な市況の変化、人員の変化(そこから発生する意見)の中で、いつか継続が難しくなり頓挫することになる可能性が高いからです。
学校法人は永続しますが、組織内の理事会メンバー、事務局、教授陣、様々なメンバーは変わり、金融の市況も変わっていきます。
こういう組織全体が継続的に理解できる運用スタイル、ということになると、結局はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のようなポートフォリオを組み世界分散投資にならざるおえないのでは、と考えます。
文科省の国立大学に向けた余裕資金の通達もポートフォリオ運用について掲載しているのは消去法的に運用スタイルとして、学校法人が失敗しない資産運用にはこの運用スタイルが適していると考えているのでしょう。
*ポートフォリオ運用は債券だけの運用ではなく、異なる性格の資産に分散投資することでより安定的な収益を上げるというモデルです。
③相談相手の金融機関のビジネスモデル
金融機関の収益のためにアドバイス内容に影響がでない、学校法人の収益を最大限に追求できるアドバイスをしてくれる先を探す必要があるでしょう。
例えば債券の場合は債券単価に手数料が含まれていて開示されないため、どれほど手数料を取られているかもわかりません。こうした中では、なかなか本当に学校法人のためにアドバイスをしている提案なのかを検証しづらいものです。
そういう場合は、相談相手の金融機関が商品売買の手数料から成り立つ収益構造でない方が良いかもしれません。
現在は、商品販売を行うのではなく、海外のようにコンサルティングのみを行う金融機関も増えてきています。
コンサルティングだけを行うような金融機関をいくつか比較されるのも良いでしょう。
その際、関連会社に販売会社があり、系列の金融商品を紹介されるような状況にも注意が必要です。
GPIFのようなポートフォリオ運用へのアドバイスが欲しくて相談しても、ラップ口座の案内や、バランスファンドの紹介の留まるのでは、学校法人それぞれに見合ったポートフォリオではないかもしれません。
その学校法人独自の課題を理解し、一緒にポートフォリオを考え、的確なアドバイスができる金融機関と出会えることは学校法人の資産運用を長期に渡り、成功させる非常に重要なポイントでしょう。