2024.02.14
法人資産の運用を考える(63) 金利上昇リスクと債券投資
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
先日、某法人より、保有する債券を売却して、別の債券を買い付けるという提案を証券会社から受けているので意見が欲しいと言う連絡をうけた。
この法人は保有する債券とは、クーポン0.84%、残存13.15年の公益企業債券。
一方、乗り換えを勧められている債券とは、クーポン1.3%、残存39.3年の40年国債であった。
前者の債券単価は90.57円、後者のそれは88.18円であった。
証券会社の提案の趣旨は、債券を売買することで、①0.84%⇒1.3%へと利金収入が増える、かつ、②90.57円⇒88.18円へとより安い単価の債券が取得できる、というものらしかった。また、法人事務局もこの提案に乗り気な様子だった。
意見が欲しいと言われたからには、正直に思うところをお伝えせねばと思い、丁重に上記の提案に対しては、反対すると申し上げた。
理由は、「日銀のゼロ金利解除リスク=中長期的な金利上昇リスク=債券価格下落リスクの渦中で、残存年数13.15年の債券から、39.30年の債券への切り替えは、超長期にわたる、一層の資産価格下落リスク=塩漬けリスクを引き受けることになります。受取クーポンがわずかばかり多くなりますが、それを割り引いても、上記のリスク引き受けることは、大きな機会損失リスクとなり、割に合わないように思います。」と添えた。
更に、小職の意見としては、(1)このまま残存13.15年の公益企業債を償還まで保有し続ける。(2)あるいは、別の資産に切り替えるのであれば、別に既に保有されておられる高配当株式ETFなどに切り替える方が、配当収入UPにも寄与すると同時に、上記の13.15年間あるいは39.30年間という超長期間の機会損失リスクも回避できる可能性が高い、のいずれかの対応が賢明なように思います、と付け加えた。
結果的には、この法人は債券の売買を見送り、当面は残存13.15年の公益企業債券を保有し続けることにしたと聞いている。
上記のような提案は他の多くの法人に対してもなされていると聞いている。
当たり前であるが、同じ債券どうしの乗り換えは、何らしかの、より大きな追加的なリスクを引き受けないで、①クーポンUP、②単価の安い債券も取得できる筈が無い。
この事例の場合では、①②のメリットを享受する為に、残存39.3年という超長期の機会損失リスク(一層の資産価格下落リスク=塩漬けリスク)を引き受けているのだ。
金利低下局面であれば、債券投資における機会損失リスクもある程度は緩和される。
しかしながら、もしも金利上昇局面であるならば、20年間、30年間、40年間という機会損失の代償は、将来の法人運営にとって極めて大きくつく。
(勿論、債券投資を全否定するものでは無い。上記のような債券どうしの乗り換え提案に十分留意していただきたいのと、同時に、金利低下局面における、債券投資の割合を仮に100とした場合、金利上昇局面では、債券投資の割合を以前より控えめにしないと機会損失を被ってしまうリスクが高まると警鐘を鳴らすものです)