2024.05.14
法人資産の運用を考える(65) 運用益が事業費を上回ってしまった場合の対応について考える ~そもそも事業費>運用益と、事業費<運用益と、どちらの方が問題なのか~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
著者が経営している投資助言会社ではクライアントに対して、外貨建て資産を含んだ、株式ETF、REITETF 債券ETF、その他日本国債などでポートフォリオ運用を長期継続し、それらから払い出される各市場平均水準のインカム収益を法人の運用収益として受け取り続けてもらっている。
最近、或る財団法人からご連絡を頂いた。
それは、「昨年度、本年度と、想定外に、運用益が大幅に事業支出を上回っている。
昨年度については有休財産上限に余裕が有ったので、それに繰り入れて処理した。
本年度分の余剰については、新たに特別目的財産の区分を設け、それに繰り入れようと思案している。
しかしなら、次年度以降の事業支出予想も鑑みれば、今のままでは運用収入超過の状態が継続してしまう。
そこで、保有するポートフォリオの一部を売却して、ゼロ金利の銀行預金にでも暫くの間、置いておこうかと、迷っている」
というものだった。
結論的には、
「ポートフォリオは、なるべく変更せずに、もしも運用収入が超過するのであれば、有休財産や特別目的財産として一時的な対応をするのも良いが、余った期だけ、基本財産などの財団の本源的な財産に繰り入れ出来た方がベターではないか」
とアドバイスした。
理由はこうである。
まず、昨年度、本年度と運用益が嵩上げされてしまったのは積極的に運用益増加を追求した結果では無い。
たまたまの市場要因である。
つまり、①企業の増配、②(米国)金利上昇による債券利子の増加、②円安による外貨建て資産からの利子配当金の円ベースでの受取額増加、などがETFの分配金増加要因となる。
その全てが昨年度、本年度、たまたま起こったのである。
特に、③の円安は、直ちにETFの受取り分配金の増加に直結する。
円ドルの年間平均レートは、2021年109.8円⇒2022年131.43円⇒2023年140.56円と、30%近く動いた。
つまり、裏返せば、(1)企業の減配、(2)(米国)金利低下による債券利子の減少、(3)円高による外貨建て資産からの利子配当金の円ベースでの受取額減少などがおこれば、正反対のことが起こる。
ETF分配金も減少し、財団の運用益が大幅に事業支出を上回ることも無くなるのである。
事実、3年前の2020年コロナショック直後、景気不安から世界中が金利を引き下げた。
この財団の運用益は現在よりも、およそ▲20%少なかったのである(当時から現在まで、ポートフォリオの売買は殆ど行っていない。当時の円ドルの年間平均レートは106.82円)。
このように、似たようなことが起これば運用益は再び減るのである。
それ故、弊社では、次年度の運用収益予想については、予め、前年実績を約▲20%割り引いてクライアントに提示して、事業予算を下回る可能性が極めて低くなるように配慮している。
本来、事業費に対して運用益が足りない事こそ死活問題である。
しかしながら、(たまたま)運用益が多くなったことで、運用方針をコロコロ変更したり、アタフタ対応したりしなければいけない現状は大問題である。
現制度上では、しかたがないと言うのであれば、余った期だけ、基本財産などの財団の本源的な財産に繰り入れ出来た方がベターではないかと考える。