2024.06.01
法人資産の運用を考える(66) インフレと資産運用 ~長期的なインフレに備えるには~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
先日、公法協が実施された資産運用アンケートの集計・分析について、お手伝いさせていただいた。
2017年の資産運用アンケートはゼロ金利、デフレなどの運用難で法人運営についてもネガティブな見通し、意見が目立っていたのを覚えている。
しかしながら、今回は一転して、ポジティブな見通し、意志が感じられる結果だった。
とりわけ、「インフレ」「物価上昇」などのキーワードがアンケートの自由記述にも非常に数多く見られた。
「インフレにも負けないで事業を維持拡大してゆかなくてはいけない」
「その為に必要な運用収益は確保してゆきたい」
「その為に必要なのであれば、必要なリスクは取ってゆく」
というような趣旨の自由記述が非常に多かった。
「インフレにも負けない事業維持拡大を遂行する」という前向きな意思・使命感というものが全面に感じられた調査だった。
さて今回は、長期的なインフレに備える資産運用の考え方について、改めて整理しておきたい。
言うまでも無いが、インフレとは世の中の物価やサービス価格が上昇しつづけ、法人の購買力が、インフレと同等か、それ以上に強くなっていかないと、徐々に事業が立ち行かなくなってゆくことである。
購入できるモノやサービスの量を減らさざるを得なくなったり、奨学金や助成金などの使用価値が受益者に対して十分ではなくなったり、法人が保有する財産の実質的価値の減価を招いてしまう事である。
結論から言えば、資産運用で長期的なインフレに備える選択肢は一つしかない。(期待リターンの低い資産での運用はほどほどにして、)出来るだけ期待リターンの高い資産で運用し続ける以外に、他に方法が無い(インフレが顕在化し始めてからよりも、出来れば、デフレの期間を含む長期間、そのような運用をずっと心がけるのがベター)。
これは、投資リターンが高い方が、万が一インフレになっても、運用実績が物価上昇などを上回っている可能性は、リターンの低い資産に比べれば、高くなるからである。
注意しないといけないのは、インフレは常に顕在化している訳ではない。
また、いつインフレになるか、どれぐらいのインフレ(率)になるかは、不確実で、何人にも判らないということである。
だから、なるべく期待リターンの高い資産で運用するというのは、インフレでダメージを被る前の<予防策>であって、必ずしもインフレに連動して運用実績が上がってゆくような<対応策>では無いという事である。
これを念頭に、インフレが顕在化する前の常日頃から資産運用を考えないといけないのである。
まず、期待リターンの低い資産とは、預貯金や債券であることは言うまでもない(1984年12月~2023年3月の利子配当金込みの運用実績は、短期預金:約60%、円債券:約240%、外債:約410%)。
一方、期待リターンの高い資産とは、株式(市場)の他に見当たらない(同期間の利子配当金込みの運用実績は、先進国株式市場:約2390%、新興国株式市場:約2360%。ちなみに日本株式市場にしか分散していないと約270%にしかならない)。
このような実績は数々の資産運用についての学術研究や実証研究にも裏付けられるものである。
留意点としては、個別個々の預金、債券、株式、不動産、その他の投資対象については、充分な学術研究や実証研究の裏付けが無いことである。
加えて、先のコラムでも紹介した通り、クーポンが多少上がったからといって、20年、30年、40年などの長期債に多くを傾倒してゆくことが、恐ろしいリスクであることも肝に銘じられ、バランスの良い運用を心がけて頂きたい。