2024.06.10
法人資産の運用を考える(67) 「満期保有だから」「元本保証だから」の危うさ ~非合理的、法人事業に合目的と言えない(許容)リスクの考え方、リスク管理~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
公法協の資産運用アンケート2023の設問の中には、(許容)リスクの考え方、リスク管理について問うたものがある。
その回答で大変懸念していることを指摘したい。
それは、前々回調査2007年、前回調査2017年、そして今回調査に至るでも、あまり進歩していないことでもある。
それは、「債券運用だから、満期保有だから、元本保証だからリスクは幾らでも許容できる」などという趣旨の回答が未だに多いことである。
「満期保有だから」「元本保証だから」という理由付けからも判る通り、個別銘柄で債券投資して償還まで保有することが前提となっている(おそらく、法人の個別銘柄投資の運用割合が多い原因でもあろう)。
何よりも一番の懸念は、このような投資行動をすること自体で、その法人や運用担当者の認識・頭の中では、ほぼ全てのリスク管理は完結してしまっている、
つまり本当にケアしなければいけないリスク管理からは目を背けているように思えて仕方が無いことである。
この懸念については、同じく資産運用アンケート2023で法人内部に資産運用の熟練者の居る/居ないかを問うた設問があるが、居る/居ないにかかわらず、「満期保有」「(償還時の)元本確保」を旨に個別銘柄で債券運用する法人には、そのこと自体でリスク管理を完結させてしまっていることを伺わせる共通する特徴がある。
それは、このような法人の回答には「元本保証」「満期保有」「債券運用」「規程・運用方針・ルールに沿って判断・手続き」「複数社から情報提供・提案」「複数人で内部協議」などのキーワードが非常に多いことである。
恐らく、これら多くの法人では、債券運用という格付けや年限、クーポン、発行体など「眼に見える、数値化・記号化、イメージしやすい投資対象」しか、自ら理解・説明することが出来ないのではないだろうか。
そして、自分たち内部で定めた規程・運用方針・ルール、複数社情報・提案、複数人内部協議などの「それらしい一定の手続き」を経ることで、全てのリスク管理は完結している(あるいは完結したものとしよう)と考えて居るように思えて仕方がない。
しかしながら、先に述べた通り、このような個別債券運用での(許容)リスクの考え方、リスク管理の方法では、インフレやデフレ、その他環境の変化に左右されずに法人事業の維持拡大することはどんどん難しくなってゆく。
債券運用の実質価値が満期償還まで守られるということは、デフレあるいはインフレ率が0%に近い時期が続くということだから、超低金利であることが普通である。
運用益=法人事業は犠牲にすることになる。
それでも、個別債券運用は続けながら、運用益=法人事業も犠牲にはしたくないという法人も多いだろう。
しかしながら、債券利回りを上げる手段は3つしかない。
①償還期限を引き延ばして(超)長期債を買う
②発行体や債券種類の質、クオリティを落とす(社債、劣後債、仕組債など)
③①②の両方を同時に行う
のいずれしか無い。そしてそれらを実際に行なっているのが現在の多くの法人の実態でなかろうか。
インフレになってしまった場合、「債券運用だから、満期保有だから、元本保証だからリスクは幾らでも許容できる」などという非合理的、法人事業に合目的と言えない(許容)リスクの考え方、リスク管理をして、個別債券を満期償還まで保有してしまったら、実質的な運用成績は悲惨な結果に陥ってしまうことを大変懸念するのである。