2024.06.15
学校法人の資産運用を考える(46)「資産運用が上手な私立大学ランキングTOP200についての考察」
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
2024年4月に東洋経済オンラインにて公表された「資産運用が上手な私立大学ランキングTOP200」の私立大学の運用利回りについて考察してみましょう。
◆当該ランキングの計算の前提
運用資産の考え方は
「有価証券」+「現金預金」+「特定資産」=運用資産
としています。
有価証券に関しては貸借対照表の「流動資産」(短期保有)と「その他の固定資産」(長期保有)に記載されている合計値としています。
こうした計算上、寝かせている預貯金が多い組織は利回りが低下する可能性が高いです。
前回までの「大学法人における資産運用状況調査(大学経営協会より)」のアンケートからの考察の場合は、有価証券に対しての運用利回りを論じましたが、今回は、「運用できる資産」において、運用できる資産が効率的に運用されているかが重要になります。
その運用資産に対して、計上されている受取利息・配当金の比率を計算し「運用利回り」を算出しています。
*対象は運用資産が3億円以上の大学
*2023年3月期の決算資料を基に計算
◆実際の100位内のランキング
実際のランキングはリンクをご覧ください↓
私立大学のTOP200までが掲載されています。
その中でも特に100位以内の平均値を見ていきましょう。
・100位以内
運用利回りの平均・・・2.75%
運用資産の平均・・・352億円
受取利息・配当金の平均・・・9億円
となっています。
そして、TOP10位以内の平均も見てみましょう。
・10位以内
運用利回りの平均・・・8.24%
運用資産の平均・・・138億円
受取利息・配当金の平均・・・9億円
非常に高い数字ですね。
また、TOP10位は運用資産平均が少ないのにも関わらず、配当が100位以内の平均と同等であることが判ります。
◆上位の高利回りの特殊要因
ただ、特殊な要因のある学校法人も入っております。
例えば、1位は東洋製罐グループホールディング創立者が設立した東京食品工業短期大学ですが、受取利息・配当金の総額18億3千万円のうち、大部分の受取配当を当該株式の配当が占めています。
当該株式の2023年3月の配当は89円であり、おおよそ14億7千万円ほどの配当があり、高い利回りの要因が判ります。
ちなみに、当該配当ですが、2021年3月の配当は43円で7億1千万円程度だったので、おおよそ半分です。
学校経営において株式の配当変動で大きな影響を受けていることもわかります。
他の法人においても特殊要因は存在します。
例えば、運用資産を信託財産に預けているケースです。
この場合、トータルリターンの収益の中から、年度の必要な収益のみを受取配当として排出することができます。
つまり会計上は受取配当ですが、実際はインカムゲインだけではなく、キャピタルゲイン(資産が増加した分を売却)も入っている状態です。
他の特殊要因としては仕組み債に傾倒しているところもあるでしょう。
たまたま為替が良いから、対象株式が良いから、という一時的に利回りが上昇しているケースもあるかもしれません。
◆上位10位を除く平均値
特殊要因も勘案して、上位10位を除いて、100位以内の平均値を見ていきましょう。
運用利回りの平均・・・2.14%
運用資産の平均・・・376億円
受取利息・配当金の平均・・・9億円
それでも運用資産(運用できる資産全体)に対して2%以上の利回りを維持できていることが判ります。
皆様の法人はいかがでしょうか。
そもそも、学校法人の場合、今回の調査の運用資産の全てを運用している法人は少ないと思います。
そうなると実際の運用している資産の運用利回りは3%を超えるものである可能性があるのではないでしょうか。
◆ランキングから学ぶべきこと
当該ランキングは、東洋経済オンラインの「本当に強い大学」という欄に掲載されていますが、「本当に強い大学」という観点では、資産運用の水準も重要になる時代です。
1位の学校法人の学校経営自体は赤字であり、運用収益にて、学費を補填し、安い学費を保っています。
アメリカの大学法人では本業が赤字で、基金運用にて年間収益を補填しているケースも多いものです。
如何に、「運用資産」全体を効率よく資産を運用し、学生に報いるか、というのもこれからの時代に必要な概念かもしれません。
また、「運用できる資産」が効率的に運用され、永続できる財務体制かも問われるかもしれません。
閉校する学校法人が出る中で、永続することの大切さをも感じます。
少子化の中で、さらに学校の統廃合、閉校も進むでしょう。
今後は永続できる資金力や経営手腕があるかは、重要なポイントとなるかもしれません。
財務の効率性を無視した、無借金経営が良いという考えや、資産運用を積極的には行わない、インフレ対策は取らない、という組織は、それで本当に永続性を担保できるのか、考える必要があるでしょう。
皆様も一度、運用できる総資産での利回りが何%になっているのか、資産運用の効率性を考えてみてください。