2024.07.09
法人資産の運用を考える(68) 満期償還までの時間的損失・機会損失リスクの重大性 ~資産運用において一番重要なのは時間(の使い方)~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回のコラムでも述べた通り、個別銘柄で債券運用する場合の、「債券運用だから、満期保有だから、元本保証だからリスクは幾らでも許容できる」という(許容)リスクの考え方、リスク管理の方法では、インフレやデフレ、その他環境の変化に左右されずに法人事業の維持拡大を志向することはどんどん難しくなってゆく(公法協の資産運用アンケート2023より)。
債券運用の実質価値が満期償還まで守られるということは、デフレあるいはインフレ率が0%に近い時期が続くということだから、超低金利であることが普通である。運用益=法人事業は犠牲にすることになる。
それでも、個別債券運用は続けながら、運用益=法人事業も犠牲にはしたくないという法人も多いだろう。
しかしながら、債券利回りを上げる手段は3つしかない。
のいずれしか無い。
そしてそれらを実際に行なっているのが現在の多くの法人の実態でなかろうか。
しかしながら、今後インフレになってしまった場合、個別債券を満期償還まで保有してしまうと、実質的な運用成績は悲惨な結果に陥る可能性がある。
加えて、通常インフレ進行時には金利は上昇し、皆さんもご承知のとおり、保有する債券の価格はどんどん下落していく。
つまり、満期償還まで保有するなどしていたらインフレで大変なことになるが、途中の債券価格はどんどん下落を続けるので、脱け出そうにも脱け出せない、八方ふさがりの状態に陥ってしまうのである。「満期保有だから」「元本保証だから」「途中の下落リスク(評価損)は気にしない」などとは言って居られなくなるだろう。
これは、大変な経済的損失であると同時に、重大な時間的損失・機会損失でもある(満期償還までの同じ投資期間なら、別のもっと良い運用方法・手段を持ちあわせていないとか、そのような方法・手段を試そうにも、債券の満期償還まで脱けるに脱け出せないとかで、大切な機会、時間を奪われてしまうという機会損失)。
実は、資産運用において一番重要なファクターは時間(の使い方)である。
時間をかけないで資産運用で良い結果が出るような旨い話はそもそも存在し無い(運用元本の保全・成長も、そこから生み出される利子配当の蓄積も、運用を続けた時間に比例して良くも悪くもなる=結果、とても大きな格差が生まれるのである)。
ゆえに、資産運用においての時間的な損失・機会損失は、経済的損失と同じか、それ以上に重大なことなのである。
つまり、日本国債などの長期債投資を全て否定する訳ではないが、これまでのように「満期保有だから」「元本保証だから」「途中の下落リスク(評価損)は気にしない」というような考え方で債券投資に多くを傾倒してゆくことには警鐘を鳴らすものである。
替わりに、ETF(上場投資信託)などのツールを活用して、世界の株式市場やREIT(不動産)市場や債券市場にも、全体としてバランスよく分散投資するポートフォリオを構築することが、重大かつ長期的な時間的損失・機会損失リスクの回避策、緩和策になると考えるのである。