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2024.09.16

【財団法人・学校法人のための資産運用入門(2)】アセットオーナープリンシプルの公表と非営利法人の資産運用

基礎シリーズ学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南

2024年8月、内閣官房「新しい資本主義実現本部事務局」が、アセットオーナーの果たすべき責任に関する共通の原則として、「アセットオーナープリンシプル(以降、AOP)」を策定・公表しました。弊社のアドバイス先の中にも、以前よりAOPに高い関心を持たれている法人様がおられました。

 

assetownerprinciples.pdf (cas.go.jp)

「アセットオーナー・プリンシプル」の策定について (fsa.go.jp)

 

このシリーズでは、今後の複数回にわたって、このAOPの原則の中身や学校法人・財団・社団法人等を含む非営利の法人投資家(以降、非営利法人)の資産運用の現状を整理したり、それらを照らし合わせたりしながら、その意義や重要性についてお伝えしていく予定です。

 

AOPのエッセンスをざっくりと掻い摘んで述べると、「原則の受け入れを表明した運用会社、年金基金、学校法人等の受益者の資金をもとに運用を行うアセットオーナー」に対して、「受益者の最善の利益を勘案した運用目的・目標を明確にすること、そしてそれらを適切な手段と体制で達成することを求めている」と言えるかと思います。

AOPは、5つの大きな原則と、それぞれの原則に紐づく複数の補充原則で構成されており、法人自らがAOPを受け入れるか否かを選択することができます。受け入れた場合には、各原則に対しての取り組みや達成状況等を公表すること、あるいは、個々の事情等を勘案し取り組まないことを選択する原則については、取り組まない理由を説明することを要求しています(コンプライ・オア・エクスプレイン)。

 

AOPを構成する5つの大きな原則

【原則1】

アセットオーナーは、受益者の最善の利益を勘案し、何のために運用を行うのかという運用目的を定め、適切な手続に基づく意思決定の下、経済・金融環境等を踏まえつつ、運用目的に合った運用目標及び運用方針を定めるべきである。また、これらは状況変化に応じて適切に見直すべきである。

【原則2】

受益者等の最善の利益を追求する上では、アセットオーナーにおいて専門的知見に基づいて行動することが求められる。そこで、アセットオーナーは、原則1の運用目標・運用方針に照らして必要な人材確保などの体制整備を行い、その体制を適切に機能させるとともに、知見の補充・充実のために必要な場合には、外部知見の活用や外部委託を検討すべきである。

【原則3】

アセットオーナーは、運用目標の実現のため、運用方針に基づき、自己又は第三者ではなく受益者等の利益の観点から運用方法の選択を適切に行うほか、投資先の分散をはじめとするリスク管理を適切に行うべきである。特に、運用を金融機関等に委託する場合は、利益相反を適切に管理しつつ最適な運用委託先を選定するとともに、定期的な見直しを行うべきである。

【原則4】

アセットオーナーは、ステークホルダーへの説明責任を果たすため、運用状況についての情報提供(「見える化」)を行い、ステークホルダーとの対話に役立てるべきである。

【原則5】

アセットオーナーは、受益者等のために運用目標の実現を図るに当たり、自ら又は運用委託先の行動を通じてスチュワードシップ活動を実施するなど、投資先企業の持続的成長に資するよう必要な工夫をすべきである。

ここでは各補充原則は省略

 

非営利法人の資産運用におけるAOPの重要性

弊社は、本原則を、非営利法人にとって非常に重要なものであると捉えています。その理由は、国が法人の資産運用に対して期待する原則が初めて明文化され、公表されたという点にあります。

これまで、非営利法人の資産運用では、その考え方や方法、管理体制について、明確な指針等は存在しませんでした。

今回、国がアセットオーナーに向けてこうした原則を策定・公表した背景には、アセットオーナーの現状の運用に対する考え方・体制等が、本来果たすべき受益者に対する持続的な利益・サービス提供に適うものとは言い難いと考えていると解釈することができるかもしれません。

 

これまでの非営利法人の資産運用

一般的にこれまでの管理方法といえば、証券会社等から情報提供を受けながら、様々な種類の債券運用からの利子収入で事業運営をやりくりするケースが多いのではないでしょうか。また学校法人を中心に、まだまだかなりの余裕をもって預金を保有しておくことで「リスク管理」とされている法人も多くあるようです。

超低金利時代を経て、物価が上昇する昨今の環境に至る中で、上記のような慣例的な考え方・手段の範囲内で資金管理をされてきた法人の中には、十分な年間収入を獲得できなかったり、保有資産の偏り・棄損が生じていたり、まだ顕在化していなくても、資産の内容が物価の上昇や金利の変動に脆弱な状態になっているところもあるのではないでしょうか。

先ほど列記したAOPの5つの原則をご覧になった方の中には、所属されている法人の資産運用の状況と照らし合わせてかなりのギャップを感じられた方もいらっしゃるかもしれません。実際、多くの非営利法人の資産運用は、このAOPが要求している水準を十分に到達していないと弊社は考えています。

 

おわりに

弊社では、こうした原則にのっとった形での運用体制を構築していくか否かは、今後、より直接的に法人の持続可能性、ひいては受益者に対する継続的な価値の提供に繋がると考えています。

国が考えるスタンダードが提示された今、その内容を理解しておくこと、そして将来的に少しずつでも、このAOPに沿った形での運用体制の構築を図っていくことは非常に重要ではないでしょうか。

次回以降、5つの原則とそれぞれの補充原則に触れながら、より詳しくAOPとはどういうものなのか、それらと非営利法人一般の資産運用とを照らした場合の示唆について、ご説明していきたいと思います。

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