2024.09.17
法人資産の運用を考える(70) インフレと株式投資(株式インデックス≒株式市場への投資)(1) ~リスク・リターン、利益相反の構造についての常識的な理解~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
円安や本邦物価上昇などから、昨今では多くの法人からそれらへの対応策についてアドバイスを求められる機会が増えてきた。
今回は長期的な対応策としての株式投資(株式インデックス≒株式市場への投資)、そのリスク・リターンの構造についての常識的な理解について考察してみたい。
まず、(1984年12月~2023年3月の利子配当金込みのリターン実績は)
先進国株式市場:約2390%
新興国株式市場:約2360%
同じ期間での本邦物価上昇率は累積で28%である
(日本株式市場にしか分散していないと約270%にしかならないが)。
ちなみに、同じ期間の利子配当金込みのリターン実績は
短期預金:約60%
円債券:約240%
外債:約410%
に過ぎない。
過去を振り返れば、短期預金、円債券、外債でも、本邦物価上昇率の累積28%には勝った結果となっている。
しかしながら1984年12月~2023年3月の物価上昇率は、殆どの年で年率0%かマイナスという異常な状況であったことを鑑みれば、従来の預金債券中心の資産運用を続けた場合、今後将来では今のままで良いのかという問題意識がアドバイスを求めてくる法人の潜在意識に芽生え始めているのかもしれない。
そこで今一度、株式投資の基本構造、法人資産運用における株式投資の位置づけ、重要性について整理してみたい。
まず株式のリターンとは、累積配当金+長期キャピタルゲインにしか分解できないという不可避の構造を持つ。
すなわち、例えばA社株式のリターンとは、①配当金(長期的な配当金の成長(期待))+キャピタルゲイン≒②A社の純資産(営業費用・配当金支払い後の長期的な純資産・内部留保の成長(期待))の如何に長期的には収斂してゆく構造であることがわかる。
ここで、仮にA社が強烈なインフレの環境に見舞われたとしよう。
原材料やサービスの仕入価格は跳ね上がるであろう。
それまで抑制していた社員の人件費も引き上げないと人材確保が難しくなるかもしれない。
しかたなく費用抑制の為に一部社員のリストラを断行しなければいけないケースも出てくるかもしれない。
また、売り上げの減少を食い止めるためには、販売価格の値上げ、新しい販路開拓、商品・サービスの開発にも取り組まないといけないかもしれない。
このように、インフレ環境でも(デフレ環境、他の環境でも常に同じ)、A社は上記の①②をずっと確保できない状態が続くと、事業が縮小均衡に陥り、やがて事業継続が困難になってしまう。
つまり、A社とその持ち分を保有するA社株主とは運命共同体(損する時も、そうで無い時も利益相反が起こりにくい=A社だけが得をして、A社株式保有者が一方的に損をすることが起こりにくい)の構造、関係であることが判る。
一方、A社債券の保有者は、低金利時に発行された債券、高金利時に発行された債券、さらに発行された債券に早期償還条件(A社に有利になった時点に繰り上げ償還できる条件)などによって、利益相反が起こりやすい=A社だけが得をして、A社債券保有者が一方的に損をすることが起きやすい。
つまり、株式は発行体と株主との利益相反が起こりづらい関係であるが、債券は発行体と債券保有者との利益相反が起こりやすい関係(早期償還、繰り上げ償還条件付きの債券は特に)であるいう元々の構造なのである。<つづく>