コラム

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2024.10.29

学校法人の資産運用を考える50大学ファンド③~ポートフォリオ構築過程と実績~

学校法人の資産運用を考える粟津 久乃

1回目は大学ファンドの選定から大学が今、求められるものについて、2回目は大学の運用手法の手本を示す意味もある、運用の考え方について、解説をしました。

今回は、大学ファンドの実際の運用実績ポートフォリオ構築への流れを見ていきたいと思います。

預貯金や債券を大量に保有しながら、本格的な資産運用を開始していくケースは多いと思いますが、構築の流れには参考になる部分もあるでしょう。

◆運用実績の公表について

大学ファンドは2022年3月にスタートしております。

手の内を明かさないためにも、将来の大学ファンドの目標とする基本ポートフォリオは公表されていません。

過去1年ごとの実績は公表していますので、過去の実績を見ていきましょう。

◆大学ファンドのポートフォリオの推移

公表されている2021年度~2023年度のポートフォリオの推移を見ていきましょう。

2021年度の運用は実際1か月にも満たない期間となっています。運用開始が2022年3月中にスタートしたため、2022年3月末時点のポートフォリオはまさに構築途中の初期の実績です。

運用開始時の運用資産額は51,186億円であり、グローバル債券が54.6%(27,963億円)、グローバル株式が4.1%(2,074億円)、短期資産が41.3% (21,149億円)という状況でした。

特に2022年3月時点において、世界的なインフレの進展やウクライナ情勢等で先行きの不透明感が強い市場環境であったことを踏まえ、慎重に投資を行ったことにより、グローバル債券や短期資産の比率が高い資産構成となったとファンドは説明をしています。

2022(令和4年度末)の運用資産額は一気に増えて9兆9,644億円となっています。

グローバル債券が54.6%、グローバル株式が17.2%、オルタナティブが 0.6%、短期資産(預金等)が27.6%です。グローバル株式への投資額を増やしています。

2023年度の変動要因は、マイナス要因はグローバル株式およびグローバル債券の資産価格の下落、プラス要因は為替の寄与となっていると説明しています。また、外貨建て資産の取得に伴う為替リスクの一部については為替ヘッジを行っています。このため、円安局面における為替のプラス効果が一部相殺され、為替リスクを全くヘッジしなかった場合と比較し、円安によるプラスの寄与は限定的となったとも説明しています。

2023(令和5)年度末の運用資産額は10兆9,649億円であり、その資産構成割合はグローバル債券が65.7%(7兆1,999 億円)、グローバル株式が25.7%(2兆8,214億円)、オルタナティブが 2.8%(3,108億円)、短期資産(預金等)が5.8%(6,329億円)でとなっています。

前年度よりも短期資産を大きく減らし、グローバル債券を追加するとともに、予定のグローバル株式の割合をかなり増加させています。

引き続き、この年も、外国債券等の購入にあたり為替変動リスクを回避するため、一部の為替取引においてヘッジ取引を実施しています。収益率および収益額となった主な要因は、マイナス要因はグローバル債券の資産価格の下落、プラス要因はグローバル株式の資産価格の上昇および為替の寄与となると説明しています。

◆大学ファンドの収益率の推移

2021年度の資金運用の収益率は+0.3%、収益額は約95億円となっています。

その内訳(グローバル債券、グローバル株式)は下表のとおりです。なお、この当該数字は運用手数料等控除前となっています。

2022年度の資金運用の収益率は-2.2%、収益額は-604億円となっており、マイナスの収益率で厳しい状況となっています。

2023年度の資金運用の収益率は10.0%、収益額は9,934億円となり、内訳は下記となります。

◆ポートフォリオ構築中の注意点

ポートフォリオの収益率の推移からわかるように、徐々に預貯金からリスク資産を買い進めていっていますが、開始後の2022年度には収益率がマイナスとなり、600億円以上の評価損を計上しています。

しかし、あくまでリスク許容度の内側にあるということで、2023年度も当初の目標通り、引き続きグローバル株式を増加させていっています。

このように価格変動があるものであるけれども、当初の目的ポートフォリオ構築までは、あくまで長期目線でポートフォリオを評価する必要がありますし、この前提は関係者が深く理解し、怯まず構築を進めていく必要があります。

成果となる利回りも当初は資産を期中に買い付けするため、年度で換算すると希薄化することも考慮しなければなりません

◆大学ファンドの手数料

例として、2022年度の運用手数料等を見ていくと、総額は63億円となっています。

運用手数料について、ざっくりと短期資産を除外して考えると、手数料率は0.087%となります。

皆様の手数料率はいかがでしょうか?

大学ファンドは運用規模による手数料ディスカウントと、金融のプロがいることで、金融商品自体の手数料を徹底的に低下させるよう努めています。

手数料に関しては資産運用において決定的な差を生みますので、今一度、手数料率はよく把握する必要があると思います。

皆様が購入する際、ファンド等の手数料は明確ですが、債券の手数料は単価に含まれておりますので、実際の手数料を顧客側で把握することが難しいものです。

しかし、一部は公表されており、例として把握可能ですので、もし、債券の購入時、手数料について不安な場合は金融のプロ同士の相対価格を知りたい場合は下記をご覧ください。

日本証券業協会のHPに記載の「公社債店頭売買参考統計値」

債券には未だに手数料がかかっていないと考えている人もいますので、基本的な債券の手数料についてわからない方はこちらのコラムをお読みください。

学校法人の資産運用を考える(20)債券投資の基本がわかるシリーズ②債券取引の仕組み

ちなみに2022年度の運用手数料等には、運用手数料のほか業務費や一般管理費、財政融資資金の支払利息等を含んでいます。

資産運用についての評価もこのように手数料等をしっかりと考慮して判断しなければなりません。

*余談となりますが、この財政融資資金の支払利息とは?という疑問が生まれる方もいるかもしれません。ここを議論するとかなりマニアックなことになりますので、深くは避けますが、実は大学ファンドの運用においての問題点でもあります。この財政融資資金は政府から借りている資金であり、償還日が決定しています。大学ファンドの借入金(財政融資資金)は期間40年(うち据置期間20年)の長期借入で2042年度以降20年間かけて順次償還されていくことになっています。返済義務の借入金を返済時期について見据えながら運用をする必要があり、学校内の資金を単純に長期間、期限なく運用できるスタイルよりも厳しいという状況です。

◆リスク量の推移

リスク管理について大学ファンドは、2回目で説明したとおり、予め設定されたレファレンス・ポートフォリオ(リスクの管理に用いる資産構成割合)から算出される標準偏差(許容リスク)の範囲内で、可能な限り運用収益率を最大化することを目指して運用を行います。

下記の図のとおり、実際のポートフォリオのリスク量はポートフォリオ構築を進める中で徐々に増加していますが、現在は、基本ポートフォリオ構築までの期間(運用立ち上げ期)のため、許容リスクのリスク量に対しては 1年間を通して相当程度余裕のある状態にコントロールされていることもわかります。

まだまだ株式へ振り替えられるが、価格変動を考慮して、少しずつ買増して行く予定でしょう。

助成資金運用の基本方針にも掲載されていますが、レファレンスポートフォリオはグローバル株式:グローバル債券=65:35ですので、かなりリスク許容度が高いものです。

大学ファンド自体も説明していますが、最終目標の年利回り3%+物価上昇率という目標を達成するためには、期待リターンの高い国内外の経済成長を取り込めるグローバルな投資へのシフトが不可欠であって、今後も順次グローバル株式に投資を拡大させていく予定のようです。

このように大学ファンドも最初、いきなり大きくリスクを取るのではなく、少しずつ、目標とするポートフォリオを構築していっています。最初に学校法人が運用に乗り出すとき、いきなり全体の運用可能資産を一気にリスク量を高めて、ポートフォリオを完璧に仕上げることは難しいものです。

ポートフォリオを新たに構築するときは、債券の償還時ごとでしたり、トライアルで総資産の一定割合を定めて、小さいポートフォリオからスタートする等、色々と舵取りの方法はあるかと思います。

重要なのは、法人ごとの制約条件の中で、リスク許容度を見極めて、リターン目標を考慮しながら、価格変動を受けながらもポートフォリオを怯まずに構築している過程です。

このポートフォリオ構築過程においては、ある程度は専門家の意見も聞く方が良いかもしれません。

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