2024.11.22
法人資産の運用を考える(72) 『受益者』の最善の利益を追求する為の資産運用 ~運用責任(フィデューシャリー・デューティー)を果たす為の、内閣官房からの『アセットオーナー・プリンシプル』~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
まず、当たり前のことであるが、学校法人、財団・社団法人など非営利法人には、それぞれの法人がサービスを提供するべき『受益者』が存在する。
また、法人は現在だけでなく、将来にわたってもそれぞれの法人サービスを『受益者』に対して提供し続けなくてはいけない。
教育、研究活動、奨学金、各種助成活動などの維持、発展を図る使命を負っている。
そして、その為の財源として、非営利法人が保有する資金の運用からの果実が重要な役割を果たすことは、(営利事業による財源確保が困難である制約からも)自明と言える。
すなわち、『受益者』の最善の利益を追求する為の運用責任(フィデューシャリー・デューティー)を非営利法人は負っているのである。
それでは、受益者等の最善の利益に適合しない資産運用とはどんなものであろうか。それはシンプルに、現在から将来にかけて、安定的な運用果実をもたらさない、事業財源の維持・発展に寄与しないリスクの高い資産運用を行うことである。
例えば、未だに多くの非営利法人は、預金・債券中心の運用を行っている(「資産運用アンケート2023」公益法人協会、「学校法人の資産運用状況2022」私学事業団より)。
このような運用内容では運用果実の水準は相対的に低く、インフレリスクなども勘案した場合、法人サービスを提供し続ける為の十分な財務基盤を維持すること難しい。
しかも、金利上昇・低下によって、運用成果は大きく影響を被り、法人サービスも安定性を欠くリスクが有る(特に、多くの大学法人では無目的(合理的な説明が不可能)と考えられる現預金が金融資産の約50%を占める状況がずっと続いている)。
更に、このような非営利法人の預金・債券運用の実態・中身で顕著なことがある。
異動で交代を繰り返す素人に近い運用担当者(関係するその他の役員等を含む)が、格下げ・デフォルトリスクや為替変動などによって運用果実が不安定になるリスクを有する普通社債、劣後債、仕組債(仕組預金)などの個別銘柄を自らの判断に基づいて選び、取得保有していることである(「資産運用アンケート2023」公益法人協会より)。
これらの実態も法人がサービスを提供するべき『受益者』の最善の利益の為の運用とは言い難い。
では、『受益者』の最善の利益の為の運用では無く、誰の為の運用に成ってしまっているのか。
それは『運用担当者』、『運用担当者を含めた法人役員』、『寄付者や設立母体、関係組織などを含めた第三者』の為の運用に陥ってしまっているのではないだろうか。
おそらく、素人に近い『運用担当者』が自らの保身の為、『法人役員』の顔色を伺ってきた(無難な範囲で過去の慣例を踏襲し続けた)結果ではないだろうか。
あるいは、素人に近い『運用担当者を含めた法人役員』が自ら保身の為に、『寄付者や設立母体、関係組織などを含めた第三者』に忖度し続けてきた(無難な範囲で過去からの慣例を踏襲し続けた)結果ではないだろうか。
このような見過ごせない事態に対して、2024年8月28日、内閣官房は、学校法人、財団・社団法人を含むアセットオーナーが、それぞれの『受益者』の最善の利益を勘案して、その資産を運用する責任(フィデューシャリー・デューティー)を果たしていく上で有用と考えられる共通の原則である『アセットオーナー・プリンシプル』を定めた。
みなさんも是非一度『内閣官房』『アセットオーナー・プリンシプル』でWeb検索して、その内容をご確認、自己点検していただきたい。