2024.11.26
学校法人の資産運用を考える52 大学ファンド④~ガバナンス・人材についての提言~
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
今回は大学ファンドについて、最後に人材とガバナンスについて触れている点について説明します。
特に、大学ファンドが発信する「国への期待」は是非お読みください。
目次
◆一読すべき、大学ファンドが発信する「国への期待」
大学ファンドは資産運用の基本的な考えの中で、国への注意事項のような「国への期待」を記載しています。この「国への期待」は運用を担当される皆様に一読して頂きたい内容でもあります。
なぜならば、大学ファンドやGPIFのような基本ポートフォリオで分散投資を前提とした運用をするときに、心すべき内容です。予測不可能な金融市場を相手にする、運用担当の皆様が、ご自身の法人組織、そして、理事会、評議会等にも伝えるべき内容でしょう。
◆国への期待 の本文
下記は一部抜粋です。
投資規律の遵守
国は、特に過去のITバブルの崩壊、リーマンショックのような一時的な危機において、運用主体の投資規律に介入・変更させることが非常に大きな運用上のリスクになるという世界の教訓を肝に銘じるべきである。このため、国は、一時的な市場の急変時も含め短期的な運用損益に一喜一憂することなく、運用主体の投資規律を遵守する覚悟を持つとともに、上記のガバナンスを前提として、運用業務の自主性・一貫性を 担保すべきである(例えば、運用業務担当理事は市場変動に伴う短期的な収益悪化を理由に解任されないなど)
◆「国への期待」の意図
基本ポートフォリオで分散投資を行うならば、価格変動(リスク)を許容して、リターンを長期に安定化させていく手法です。長期運用であるならば、大きな価格変動が起きることも想定(自分たちのポートフォリオが万が一の時、どの程度最大下落するのかは理解)し、その時点怯んではいけない、ということを強く発信しています。
価格変動の評価額は一時的なものであり、世界分散投資をしていれば平均回帰(価格がもとに戻ること)することがあるため(分散していない個別銘柄での債券や株式投資は当てはまらない)、こうした特性を理解して、人員・組織運営への配慮をすべきということです。
◆ガバナンスの強化についての本文
下記も一部抜粋です。
運用体制及びガバナンス体制の構築
機構は、運用体制及びガバナンス体制の構築に当たり、機構法に定める運用・監視委員会を置くとともに、 投資部門(第1線)・リスク管理部門(第2線)により業務運営上の牽制関係を確立し、監査部門(第3線) がこれを監査する「3線防衛」を機能させるため、以下の事項の実現に取り組むべきである。
・運用・監視委員会は外部の有識者で構成し、基本ポートフォリオも含む重要な投資方針を審議するとともに、機構からの適時適切な報告のもと執行部から独立した立場から運用を適切に監視する(委員会の議決は委員のみで行う)。投資規律遵守の観点から、運用開始前に市場急変時の対応に係る基本的な方針等を文書化しておくことに加え、委員会に、長期運用の知見及び対外説明能力を有し、投資規律を重視し、覚悟をもって取り組む者を配置する。
・投資部門においては日常の適切な運用に係る意思決定のための委員会、リスク管理部門においては投資部門に対する牽制機能発揮のためリスク管理を目的とする委員会(リスク管理委員会)をそれぞれ設置する。 これらを通じ運用・監視委員会に対して適切に状況を報告する。
・監事は、業務運営が適切に行われていることを業務執行から独立して監視し、全体の内部統制の運用および業務運営を監査する。
・運用目標の達成には、高度かつ多様な運用が必要であり、この実現に必要な体制を、リスク管理も含めて構築する。そのためにはフロント、ミドル、バックを問わず、専門的知識に加えて能力と覚悟を有する優秀な人材を国籍を問わず確保することが鍵であるとの認識の下、そうした人材の採用・確保を可能とする 雇用形態や給与体系を構築する。
・長期運用であることに加え、将来的な各大学における基金造成も視野に、長期的視点に立った人材育成が必要であることに鑑み、そのための人事施策(OJTプログラム、戦略的な人事ローテーション等)を行う
◆学校法人にとっての取り入れるべき点
実際、大学ファンドのような形式まで、各大学法人がガバナンス体制を築くことは人員の制約等から、困難であると考えられます。ただ、大学ファンドが発信するポイントを勘案したガバナンス体制を築くことは可能でしょう。
取り入れるべきポイントを纏めましょう。
運用の人材においての考慮すべきポイント
外部の委託、内部雇用に関わらず、人材には長期運用の知見があり、対外説明能力があることが求められる
投資規律を遵守できる人材であること(ほかの利害に影響を受けない)
運用委員会等には外部の有識者を入れること
専門的知識を有する優秀な人材を確保できる雇用形態・給与体系を構築すること
長期的視点に立った人材育成ができる人事施策を行うこと
ガバナンスにおいて考慮すべきポイント
基本ポートフォリオを策定すること
投資方針書・運用方針書・ガイドライン等を策定すること
上記に市場の急変時に係る基本的な方針等を明確に文書化し、それを共有すること
属人的な体制ではなく、運用委員会、理事会、評議会、監査等、お互いを牽制し合えるガバナンス体制を築くこと
◆運用環境の変化に伴う意思決定の責任
大学ファンドもGPIFも債券100%の資産運用ではありません。
そして、債券だけに偏る運用ではなく分散投資を推奨しています。
そうした資産運用は全く将来が判らない、不確実なものに対応します。
人材においては、先が見えないものに対峙するのにも関わらず、法人組織では資産運用の意思決定について責任が問われます。
その責任問題から、運用担当者・理事会・評議員会等は従来を踏襲する形式が多くなりがちです。
時代は変わり、昔のように預貯金・債券ばかりを保有して良い時代ではなくなってきています。
資産運用においてインフレへの対策を大学ファンドもGPIFも行っていますし、個別銘柄での債券投資や、仕組債投資等だけの運用は、分散投資を提唱する大学ファンドやGPIFの投資手法とは全く異なります。
予測不可能な金融市場では、ガバナンス上、責任が問われるのは、人の意思決定の正当性が問われているかではないでしょうか。意思決定が恣意的・属人的であるより、客観的にも学術的にも認められる手法をとっていることが求められています。
運用担当者にとっては難しい時代ですが、是非、大学ファンドの実情を見ながら、各法人が本当に今の状況が適しているのかを考えて頂きたいと感じます。
◆参考資料
世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの資金運用の基本的な考え方