2024.12.15
法人資産の運用を考える(73) プロと呼ばれる人たちの資産運用提案への違和感
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
かつて、某年金基金の運用委員をしていた時期があった。そこで覚えた違和感について話したい。
その基金では信託銀行が将来収支・残高分析を行い、その結果として、基金ポートフォリオ案(資産配分比率案)を5つぐらい提示していた。
更に、各ポートフォリオ案についてもリスクとリターンを提示して、クライアントである基金に判断を仰ぐというものだった。意思決定の形式・手続きとしては、問題はなさそうである。
しかしながら、ポートフォリオ案が導出された前提条件について、クライアントはどこまで理解しているのか?
提案する信託銀行自体がどれだけそれを理解・説明できるのか? について違和感を禁じえなかった。
この手のポートフォリオ案は機械で導出されることが一般的である。
導出に必要なINPUTデータは
①(将来の)リターン値
②(将来の)リスク値
③(将来の)各資産間の相関係数値
である(国内株式、海外株式、国内債券、海外債券、オルタナティブ資産の全ての値が必要となる。海外資産については為替のリスク・リターンなどの加味した値となる)。
全ての値が的中すれば、それらを組み合わせた各ポートフォリオのリスク・リターンも提案どおりということになるが、そんな「未来を見通せる水晶玉」のようなものを誰も持ち合わせているハズが無い(現実は、何年かの過去実績から類推してこれぐらいの値。
あるいは、信託銀行など殆どの金融機関横並びのコンセンサス値のようなINPUTデータを使うのが普通である)。
当然、ポートフォリオ案のリスク・リターン値も将来と一致するものではない。
しかしながら、クライアントである基金の唯一の判断材料は、そんな風に導出された結果としてのポートフォリオ案のリスク・リターン値だけである。
往々にして5つのポートフォリオ案の中から、リスクが小さく、リターンもあまり犠牲にしないものを選択する。
結果、選択はオルタナティブ資産の多いものになる(うがった見方かもしれないが、そうなるよう予めオルタナティブ資産のINPUTデータが操作されているようにも思えた)。
更にそれだけでは無い。
その基金では年金コンサルも雇っている。彼らの役目は、基金が選択したポートフォリオ案で組み入れる具体的なファンドを説明・推奨することである。
この時点で基金が選択したポートフォリオ案と実際に取得するファンドで出来上がったポートフォリオとは更に乖離してゆく。
つまり、選択したポートフォリオ案のリスク・リターン値は上記の前提条件に基づいたINPUTデータ=国内株式、海外株式、国内債券、海外債券、オルタナティブ資産の平均的な値、市場平均インデックスのデータである。
それに対して、年金コンサルが基金に説明・推奨するファンドの多くは、インデックス運用では無くアクティブ運用ファンド、個別性の強いオルタナティブファンドだったりする(これらのファンドは運用コストも高く、コスト控除後の運用成績が相当よくないと、インデックス運用さえ下回ることも珍しくない)。
つまり、ある前提条件を置いた市場平均インデックス・ベースのINPUTデータから導出された信託銀行の提案は、年金コンサルの提案によって市場平均インデックスとさえ関係のないファンドに置き換わったポートフォリオが出来上がってしまう(基金側は違和感を覚えるどころか、よりリスクが小さく、リターンを損なわない提案をしてくれる金融機関のプロフェッショナリズムを信じて疑わない)。
しかしながら、本当のプロフェッショナリズムとは、資産運用の限界をクライアントに正直に話せることからスタートすると考える。