2025.01.14
法人資産の運用を考える(74) 今後の運用担当者と法人役員が理解、取得するべき運用知識と運用スキル(1) 個別銘柄投資(公債除く、個別の社債、外債、REIT、株式)の弊害
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
著者は、今後の運用担当者と法人役員が理解、取得するべき運用知識と運用スキルとは、
(1)グローバルの様々な金融市場全体に分散投資することを資産運用のスタートラインとする普遍的、本源的な運用知識
(2)それらの金融市場を組み合わせた(基本)ポートフォリオのマネジメント・スキル(資産配分比率の策定とメンテナンス)
の2点に絞り込めると考えている。
つまり、現在に至るまでも主流である運用担当者(法人)が個別銘柄投資(公債除く、個別銘柄の社債、外債、REIT、株式)を取得管理する自家運用を続けることは、判断が難しく(主観的に陥りやすく、判断間違いも起こりやすい)、(運用内容やその背景となる考え方の)引継ぎも難しい。
ゆえに、個別銘柄での自家運用管理スタイルの持続性(運用面だけでなく、ガバナンス面からも)が怪しいという問題が今後ますます顕在化すると予見する。
【1.必ず主観判断が入り込む】
まず、個別銘柄投資は個別の発行体の良し悪しを判断、取捨選択することからスタートする。そして、その時点で客観的な基準というものが存在しないということが一連の問題の原因である。運用担当者や法人が個別の発行体を判断する際には必ず、主観が入り込む。「この銘柄、この発行体であれば、安全に違いない、有利に違いない、安心できる」などと法人の誰かかが判断しないと取得できない。
【2.個々の発行体の財務状況はどんどん変化する】
厄介なことに、「この銘柄、この発行体であれば、安全に違いない、有利に違いない、安心できる」とした筈の前提条件は、取得後の発行体の状況(業績など)、金融環境(金利、為替など)によって、どんどん変化してゆく。
【3.個々の発行体の詳細な財務情報の収集、そのフォローは大変な業務負荷であり、法人には事実上不可能である】
そもそもの取得時もそうであるが、取得後の発行体の状況(業績など)、金融環境(金利、為替など)の変化という詳細な情報まで精査・モニターできる運用担当者と法人などほぼ皆無である。せいぜい、第3者が便宜的に提供しているある一時点での静的な情報(債券格付けなど)や、過去の主観的な経験則や世の中の評判(優良企業であると思えるとか)に基づいて判断してゆくのがせいぜいである。
【4.主観に基づいた個別銘柄とその取得保有の背景となる考え方を後任の運用担当や役員へ引き継ぎすることは困難である】
そもそも「なぜその発行体を取得保有したか?」について過去の誰かの主観が入り込まざるを得ない投資対象ゆえ、その背景となる考え方までも後任の運用担当や役員に引き継がれることはまず無い。機械的かつ表面的な引き継ぎが続いても、問題が表面化しないケースもあるが、個別の発行体の財務状況やそれらを取り巻く経済環境が未来永劫一定ということは絶対にありえない。ゆえに「なぜ前任者が、この社債、劣後債、仕組債、外債、REIT、株式を買ったのか理解・説明に苦しむ」と、格下げ、デフォルト、価格下落+長期低迷、減配・無配転落、その他円高や金利上昇など環境悪化などを契機に、必ず(ガバナンス面を含む)個別銘柄投資の問題が顕在化することを繰り返す。
以上、主観判断に大きく依存する、発行体の状況が変化を続ける(普遍的でない、必ず栄枯盛衰を伴う)、それらのモニター・フォローが困難、引継ぎが困難、結果は運任せ、ガバナンス面も怪しい個別銘柄投資(社債、劣後債、仕組債、外債、REIT、株式など)が、今後の法人の資産運用管理のスタイルとして持続性に劣る理由である。