2025.01.14
【財団法人・学校法人のための資産運用入門(3)】アセットオーナープリンシプルの公表と非営利法人の資産運用③
学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南
このシリーズでは、複数回にわたってアセットオーナー・プリンシプル(以降、AOP)についてお伝えしてまいります。とりわけ、学校法人、財団法人、社団法人等の非営利の法人投資家(以降、非営利法人)の資産運用の観点から見たAOPの意義や、その重要性に触れたいと思います。
弊社では、創業以来一貫して、このAOPのような考え方が、非営利法人の資産運用の標準であると考え、これまでお客様に対して、アドバイスを行ってまいりました。
今回は、5つの原則のうち3つめの原則3について触れていきたいと思います。
「アセットオーナー・プリンシプル」原則3
原則3
アセットオーナーは、運用目標の実現のため、運用方針に基づき、自己又は第三者ではなく受益者等の利益の観点から運用方法の選択を適切に行うほか、投資先の分散をはじめとするリスク管理を適切に行うべきである。特に、運用を金融機関等に委託する場合は、利益相反を適切に管理しつつ最適な運用委託先を選定するとともに、定期的な見直しを行うべきである。
補充原則
3-1. アセットオーナーは、受益者等の最善の利益を勘案しつつ誠実かつ公正に業務を遂行するため、運用目的・運用目標の達成に資することができるか、運用方針に適合しているか等の観点から、委託先の選定を含め幅広く運用方法を比較検討すべきである。
3-2. アセットオーナーは、運用目的に照らして、運用対象資産の分散、投資時期の分散や流動性等を考慮して、運用方法を選択し、運用資産の分別管理のほか、適切なリスク管理を実施すべきである。その際、アセットオーナーの規模や運用資金の性格に照らして、必要があれば、VaR等の定量的なリスク指標も踏まえながら、ストレステスト等も活用して経済・金融環境の変化に備えることも考えられる。
3-3. アセットオーナーは、運用委託先の選定に当たっては、運用目的・運用目標の達成に資する観点から判断すべきである。その際、1つの金融機関等のみに運用を委託することは、効率性の観点から必ずしも否定されるものではないが、従来から委託している金融機関等であることや、選択している運用方法であるという理由のみで同じ金融機 関等を選定し続けるべきでない。また、自らや資金拠出者等と、運用委託先及びそのグループ金融機関との取引関係がある場合、運用目的・運用 目標に反していないか、適切に利益相反管理を行うべきである。また、運用委託先への報酬を検討するに当たっては、運用委託先がもたらす付加価値に応じたものとすべきである
3-4. アセットオーナーは、運用委託先の選定に当たっては、過去の運用実績等だけでなく、投資対象の選定の考え方やリスク管理の手法等も含めて総合的に評価すべきである。その際、知名度や規模のみによる判断をせず、運用責任者の能力や経験(従前の運用会社での経験等を含む)を踏まえ、検討を行うことが望ましい。例えば、新興運用業者を単に業歴が短いことのみをもって排除しないようにすることが重要である。
3-5. アセットオーナーは、受益者等にとってより良い運用を目指すため、運用委託先・運用方法を定期的に評価し、自らの運用目的・運用目標・運用方針に照らして、必要に応じて見直すべきである。
金融庁『「アセットオーナー・プリンシプル」の策定について』より
原則3のポイント
この原則のエッセンスをまとめると、主に以下の3つになるかと思います。
- 受益者利益の観点からの適切な運用方法の選択
- 分散投資を基本としたリスク管理
- 運用委託先の選定と見直し
受益者利益の観点からの適切な運用方法の選択
AOPでは、運用方法を検討・選択する際には、受益者の利益を最大限考慮することが望ましいと考えられています。
学校法人であれば、最も直接的な受益者は生徒・学生と言えるかもしれません。あるいは財団法人であれば、財団から助成を受ける人や事業など、共済組合などの社団法人であれば、出資者と考えられます。
さらには、このような直接的な受益者に加え、公益に資するという使命を負う非営利法人にとっての受益者は、社会そのものでもあると言えます。
ですから、AOPの原則3からは、こうした立場の法人が資産の管理・運用を行うに際して、時に非合理的な法人都合や慣例を優先した手法、あるいは、不必要に高度化され、法人内部で一般的に理解されきらないような手段を用いることを、あまり良しとはしていないと読み取ることができます。
例えば、慣例的に現預金を過大に保有したり、債券運用が抱えるリスクを合理的に評価・対応をおこなわずに債券一辺倒で運用すること、あるいは、リスクリターンが見合わない仕組債のような金融商品を勧められるがままに購入することなどは、国が今回提示したAOPにおいては、適切な資産運用管理とはみなされない可能性があるのです
分散投資を基本としたリスク管理
また、運用資産を分散したり流動性を確保したりしながらリスク管理を適切に行うことを、AOP原則3は求めています。
投資対象資産や通貨、地域、発行企業などが偏った状態では、万が一が起こった際、保有資産に回復困難なダメージを及ぼす可能性があります。また、オルタナティブ投資などに含まれる換金性の低い資産は、突発的な資金需要に対応できない事態など、一般的な法人投資家が負うべきではないリスクを内包していることも多くあります。
前述の債券一辺倒の運用や仕組債運用、あるいは最近よく聞かれる私募リートやインフラファンド、プライベートエクイティなどは、AOPの求める分散投資と流動性の確保という観点から見ると、適切なリスク管理を行うことが難しい投資対象が少なくありません。
また、リスク管理においても、金融機関が行っているような高度なリスク分析は、非営利法人にとって必ずしも必要、重要なものではないという点に留意が必要です。
過度に高度化した運用手法では、リスク管理も過度に複雑化していく傾向があります。さらには、複雑なリスク分析をした割には、法人の長期運用にとってはあまり重要ではない、あるいは意味をなさないデータばかりが揃い、結果として法人のほとんどの人が運用内容や、リスク管理の状況を理解していないという状況も生まれがちです。
ですから、非営利法人の運用ではそういったリスク管理が必要なく、法人全体で常識的に理解が可能な範囲に運用内容を留めておくということが重要です。
運用目的を果たし、運用を長期的に継続していくという観点から、どのようなリスク管理方法が適切なのかを検討する必要があります。
運用委託先の選定
最後に、原則3では、運用委託先に関して非営利法人が考慮するべき適切な管理方法を示唆しています。
補充原則3-3の通り、様々ある金融機関と各非営利法人との間で、関わりの有無やその深さの違いはそれぞれあるかと思います。しかし、ここでも最も考慮されるべきは受益者の最大利益であり、それをないがしろにしてまで法人都合が優先されるべきではありません。
推奨、販売されるサービスや商品、それらを扱う販路などを取り巻く様々な利害関係を適切に認識し、利益相反関係の中に法人の運用資金がさらされることがないか、包括的かつ継続的に評価するのがよいでしょう。
また、長期運用を基本とする非営利法人にとって、商品・サービスへ支払うコストは、運用成果に段々と大きなインパクトをもたらします。
金融商品の購入やコンサルティングサービスの利用などを検討する際には、様々な提供主体の比較を行うことをお勧めいたします。