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2025.03.15

【財団法人・学校法人のための資産運用入門(4)】アセットオーナープリンシプルの公表と非営利法人の資産運用④

基礎シリーズ学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南

このシリーズでは、複数回にわたってアセットオーナー・プリンシプル(以降、AOP)についてお伝えしてまいります。とりわけ、学校法人、財団法人、社団法人等の非営利の法人投資家(以降、非営利法人)の資産運用の観点から見たAOPの意義や、その重要性に触れたいと思います。

 


弊社では、創業以来一貫して、このAOPのような考え方が、非営利法人の資産運用の標準であると考え、これまでお客様に対して、アドバイスを行ってまいりました。

 


今回は、5つの原則のうち2つめの原則2について触れていきたいと思います。

 

「アセットオーナー・プリンシプル」原則2

 

原則2

受益者等の最善の利益を追求する上では、アセットオーナーにおいて専門的知見に基づいて行動することが求められる。そこで、アセットオーナーは、原則1の運用目標・運用方針に照らして必要な人材確保などの体制整備を行い、その体制を適切に機能させる とともに、知見の補充・充実のために必要な場合には、外部知見の活用や外部委託を検討すべきである。

補充原則

2-1. アセットオーナーは、運用目標の達成に向けて、資産運用及びリスク管理を継続的かつ適切に運営できるよう、自らに必要な知見を把握するとともに、その知見が確保され、監督と執行それぞれが機能するガバナンス体制を構築すべきである 。
その際、アセットオーナーの規模や運用資金の性格に照らして、必要があれば、金融市場やアセットオーナーにおいて資産運用の経験を有する運用担当責任者を設置し、運用担当責任者の権限を明確化するとともに、必要な監督を行うことも考えられる。
また、運用担当者について、特定の人材に依存すると、離職時の継続性の支障や運用委託先等との不適切な関係の発生といった懸念も生じることから、適切な資質を持った人材の計画的な確保に留意すべきである。

2-2. アセットオーナーは、適切な運用を行うに当たって、知見の補充・充実のために必要な場合には、外部人材の登用、又は、金融機関・外部コンサルティング会社・OCIO ・業界団体その他の外部組織の活用等を検討すべきである。
その際、報酬を検討するに当たっては、外部人材や外部組織がもたらす付加価値に応じたものとすべきである。

金融庁『「アセットオーナー・プリンシプル」の策定について』より

 

長期的な価値創造のためのガバナンス体制とは

資産運用の世界において、受益者の最善の利益を追求するためには、アセットオーナーが専門的知見に基づいて意思決定を行うことが求められます。適切なガバナンス体制の構築は、持続可能な法人資産の成長と安定したリターンを確保するための重要な要素であると考えられます。

本稿では、原則2およびその補充原則について解説し、実務における具体的な対応策を考えていきたいと思います。

 

長期的な価値創造を支えるガバナンスの重要性

学校法人・財団法人等の非営利法人が運用目標を達成するためには、法人自らの知見を継続的に強化し、資産運用およびリスク管理を適切に運営できる体制を整備することが重要です。

適切なガバナンス体制の確立は、法人にとって下記のような重要な点を支えることになり、その結果として、法人に対して長きにわたる運用成果をもたらす可能性を高めると考えています。

  • 専門性の強化:資産運用に必要な知見を社内外で確保し、運用の質を向上させる
  • 透明性と説明責任の確保:運用プロセスや意思決定の仕組みが明確になり、法人内部や受益者等の様々なステークホルダー等との間における信頼を向上させる
  • リスク管理の強化:長期的な視点での資産運用を可能にし、変動市場への耐性を高める

 

 

ガバナンス体制の確立を目指すうえで、AOPが求めるポイントは主に下記の二点でしょう。

  • 資産運用の管理体制の構築(補充原則2-1)
  • 外部知見の活用による運用能力の向上(補充原則2-2)

 

 

ガバナンス体制の構築と運用

資産運用の管理体制の構築(補充原則2-1)

AOPは、資産運用およびリスク管理を継続的かつ適切に実施できるガバナンス体制を確立することを求めています。具体的には、以下の取組みが考えられます。

  • 必要な知見の把握と確保:運用の適正な判断ができるよう、法人自らの知見を定期的に評価・補強する
  • 監督と執行の明確な役割分担:意思決定の透明性や運用内容の説明可能性を確保し、チェックアンドバランスを機能させる
  • 運用担当責任者の設置:
    • 金融市場やアセットオーナー業務に精通した人材の配置や外部人材との連携(後述)を通して、権限と責任を明確にする
    • 運用担当者の特定の個人への依存を避け、組織的な知見の蓄積を図る
    • 運用担当者の適切な継承計画を策定し、異動・離職時の影響を最小限に抑える

 

 

外部知見の活用による運用能力の向上(補充原則2-2)

AOPでは、資産運用の専門性を高めるため、アセットオーナーは適宜、外部の知見を活用することが推奨されます。具体的には、以下の選択肢や論点が考えられます。

  • 外部人材の登用:運用能力の補強のため、専門的な知識を持つ人材を招聘する
  • 金融機関・コンサルティング会社・OCIO・業界団体の活用:市場環境の変化に迅速に対応するため、利益相反関係に注意しながら、外部の知見を取り入れる
  • 外部委託の適切な管理:
    • 外部組織の選定において、その付加価値や専門性を十分に評価する
    • 金融機関特有の利益相反関係や、コンサルティング会社のインセンティブ構造を認識し、受益者の利益を損なわないよう管理する
    • 外部委託に依存しすぎず、自らのガバナンス体制を維持する

 

 

財団法人・学校法人等の非営利法人は、単なる資産の管理者ではなく、受益者・公益の最善の利益を実現する社会的な責任を負う、特徴ある法人と言えます。その責任を果たしていくため、専門的知見を確保し、適切なガバナンス体制を構築・運営することが不可欠ではないでしょうか。

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