2025.03.15
少子化がもたらす財団・学校法人への影響①社会構造の変化
粟津 久乃
厚生労働省の発表速報によると2024年の日本における出生者数は72万988人となり、前年度よりも3万7643人減りました。減少率としては5%も減少したことになります。
この数値は外国人なども含めた速報値となり、実際の日本人だけの出生者数は更に減少するため、70万人を下回る可能性が高くなってきました。
当たり前ですが、この数字は統計を取り始めて、最も少ない数値で、全ての都道府県で減少となっています。従来の将来予想では、73万人の出生者数を割るのは、2039年と推計していましたが、15年早く社会構造の変化が訪れていることになります。
この変化によって、どのような影響がでるのでしょうか。財団法人、学校法人にとって、組織運営上の影響について考察していきます。
①人材確保
組織としてより一層、人材確保が難しい局面が早いうちに訪れる可能性は高いです。日本と主要各国の生産年齢人口(15歳~64歳の人口)の推移は下記の通りとなります。
他国と比較しても、総人口の減少に伴い、一貫して厳しい割合で減少していくことが見込まれています。
社会を担うと言われる生産年齢人口の減少は、社会構造に大きな影響を与えると考えられますが、このような中で、社会全体は勿論、財団法人や学校法人が優れた人材を確保し続けることが困難になることが予想されます。
②人材確保のため準備すること
各国と比較しても日本の減少の仕方は驚くべきペースであることは前述の通りです。厳しい状況が訪れるために、今から準備は必要です。
例えば、人材採用において、財団法人・学校法人が見直すべきポイントとしては
・労働者の特性変化に対応できているか
・人材確保の方法の多様化に対応できているか
・法人ならではの魅力、価値観、理念の伝え方が上手に伝わっているか
・賃金の見直し
労働者の特性が昔と今はかなり違ってきています。リモートワークやフレックスタイム制等、かなり柔軟な勤務形態を求めることも多いと思います。こうした労働者の特性変化に対応できる法人側に柔軟性も求められるようです。
採用方法も今は多種多様になってきていますので、旧来だけの対応ではなく、多様な対応も検討しつつ、法人ならではの魅力を伝える必要があります。また、職場選びの時、自分自身にとって得られる知識や経験を重要視する人もいるようですので、上手にどういった経験が積めるのかも伝わると良いかと思います。
そして、一番、人材確保のために考えるべきは賃金問題にあると思われます。
③賃金を上げる必要性
財団法人も、学校法人も高い志だけで、人材を集めることが困難になってきています。一方、日本全体として、賃金動向はどうなっているのでしょうか。
1990年からの賃金推移をみても、各国と比較すると、実質賃金はほぼ上昇しなかった状況がわかります。
しかし、過去は物価上昇もなく、賃金が上昇しないことに対して問題となりませんでした。直近はどうなっているのでしょうか。2024年春闘では33年ぶりに賃上げ率が5%を超え、2025年の春闘の賃上げ要求は6%を超えています。
物価上昇・生活コスト増加の中で、以前よりも、賃金に対してシビアな判断をする環境があるようです。良い人材を集めるためには、その地区における賃金水準についても注意が必要です。
実際、直近の賃金を上昇させていても、2024年8月の実質賃金(物価の変動を考慮した賃金)でみるとマイナス0.6%でした。そのため、全く賃金を上昇させてないことは実質賃金を考えると相当価値として低下していることになります。
④賃金上昇させるための原資をどうするか
財団法人も学校法人も賃金を上昇させる必要があるでしょう。クライアントの様子を見ていまして、賃金上昇の話題が実際の理事会で多くみられるようになりました。
人材確保のために、賃金を世間並に対応させることは勿論、その原資をどうするかの議論も多くなっています。
当たり前ですが、国内債券100%で運用していれば、現状の物価上昇や賃金上昇問題に対応は難しいでしょう。国内の金利上昇局面において評価損は膨らみ、実質価値は更に棄損していく状況です。
組織それぞれが賃金問題、さらには原資をどうするのかについて、積極的な議論を行う必要があることを感じます。
物価上昇や賃金上昇問題に対応する、資産を減少させず維持する、これらを考えるならば、分散投資を行い、資産を膨らませる可能性のある資産を一部でも保有する必要があります。
対応するのか、対応しないのか、財団法人・学校法人の中でしっかり将来を見据えて議論する時期かと思います。
さて、次回は少子化がもたらす影響として、投資先としての日本はどうなのかをデータを元に考察します。