2025.04.11
法人資産の運用を考える(77) 母体企業株式、法人設立時に寄付された個別銘柄株式、 その他の法人の裁量で取得保有した個別銘柄株式での資産運用についての意識変化
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
著者の経営する法人向け投資顧問会社には、
①財団法人などが保有する母体企業株式、法人設立時に寄付された個別銘柄株式
②その他の法人の裁量で取得保有した個別銘柄株式での資産運用
についての相談、アドバイスを求められる機会が、最近増えている。
前者のケースは、企業の創業者や創業者一族などが、相続対策も兼ねて、保有する株式を設立した財団に寄付したことに遡る。
後者のケースは、法人の前任や前前任の役職員が、「優良株」であるとか「高配当株」であるとかの基準で、何種類かの個別銘柄株式を取得したことに始まる。
弊社への相談、照会とは、
「このまま保有し続けても良いのか迷っている」
「裁量で個別銘柄株式を運用するときの判断、管理が難しい、限界を感じている」
「どう考えて、対処していったら良いのか?」ということに集約される。
まず、母体企業株式、法人設立時に寄付された個別銘柄株式のケースであるが、近年、個別企業、発行体を取り巻く経済・事業環境の変化が激しく、企業業績・配当金が法人運営にとって悪い方に急激に落ち込んで、そのまま回復しないリスク、そんな事例を目の当たりにし始めたのがきっかけとなっている。
このような株式は、法人の裁量で運用、処分できるものではない。ある意味、政治的な財産、あるいは保有し続けることで創業者や寄付者への敬意を示すべきという感情的なモノが混じりあった財産であった。
しかしながら、母体企業株式、寄付された個別銘柄株式の価値と配当とに、法人運営が一蓮托生となっている状態であり、そのリスクは非常に大きい。寄付された株式が何であったかという、たまたまの偶然によって、法人の浮沈が決まってしまったという事例は昔から何度も繰り返されている(消えて無くなってしまった法人、公益事業も少なくない)。
法人の事業・運営を優先するか、母体企業・寄付者への政治的、感情的な配慮を優先するか、と天秤にかけた場合に、法人の事業・運営の方を重視する傾向が以前よりも強くなっているようである。
法人向け投資顧問会社、アドバイザーという立場からもこのような変化は歓迎する。
つぎに、法人の前任や前前任の役職員が、「優良株」であるとか「高配当株」であるとかの基準で、何種類かの個別銘柄株式を取得・運用し続けているケースであるが、このケースは近年の日本株の上昇が現任の役職員に個別銘柄株式での運用について「再考」を促すきっかけとなっている。
つまり、日本の株式市場全体が上昇したなか、保有する多くの「優良株」「高配当株」も上昇したことだろう(あるいは低迷を続ける個別銘柄も含まれるかもしれない)。
このような状況で、現任の役職員は個々の銘柄について、説明性の有るジャッジ、(リスク)管理する責任を負っているということに気が付いたのである。「優良株」「高配当株」などと思っていても、個々の企業、発行体の全部を取り巻く経済・事業環境の変化をモニターするのは、プロのファンドマネージャーでも困難で、よく間違える作業である。ましてや前任や前前任の役職員が保有する個別銘柄について適切にジャッジ、(リスク)管理できていたのか、仮に、出来ていたとしても、それが現任の法人役職員に引き継ぎできているのは、極めて疑わしい。
つまり、個別銘柄株式で説明性の有るジャッジ、(リスク)管理を続けることは困難と気づく役職員が増えたのである。これも歓迎すべき変化であると考えている。