2018.11.30
法人資産の運用を考える(2) 内部人材の問題についての考察
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
拙著『新しい公益法人・一般法人の資産運用』での資産資産運用アンケートの分析結果からも、法人が資産運用やその管理を行うに当たって、様々なリソースが十分とは言えない幾つかの問題点が明らかになっている。
特に、資産運用というものを真の意味において理解し、内部に対してその見識を上手に伝えることが出来るような担当の役職員が不足しているという問題は深刻である。
通常、法人の運用業務を担当している役職員の陣容は非常に小規模かつ、他業務との兼業である。しかも、彼らの多くは総務、会計、その他の管理部門の出身者で、およそ本格的な資産運用業務に携わったキャリアを持っている人材はまず居ない。さらに、彼らの殆どが数年おきに異動、交替を繰り返しているのが普通である。つまり、十分な内部人材を確保できない、育てられない、異動も繰り返すという根本的な問題を抱えているのである。
にも拘らず、預貯金や日本国債を切り替え続けたり、母体企業株式を持ち切ったりしていれば良かった時代の昔のままの資産運用の考え方・スタイルが延々と続いている。預貯金や日本国債以外となると、法人は他に依存して意思決定を行わざるを得ない。それが債券の信用格付けだったり、証券会社など金融機関からの情報や提案だったりしている訳で、それら無しでは法人の資産運用業務は何も始まらない状況である。しかしながら、信用格付けは未来永劫、絶対なものでは無く、証券会社など金融機関も“販売会社”に過ぎず、必ずしも法人の味方という訳では無い。薄々気が付きながらも、“他にしようがない”というのが多くの法人の置かれた立場なのだろう。
最近の話であるが、運用会社からファンドマネージャー経験者を法人の運用担当者として雇い入れたという法人、非常勤理事の中にたまたま運用会社役員がおり、その人からアドバイスを貰っているという法人、という2つの事例に遭遇した。どちらの法人もそれ以前の資産運用に比べると、その考え方・スタイルの進歩は著しい。
これらの法人運用担当者や法人理事の資産運用に対する見識は何処に由来しているのか? それは、過去のキャリアにおいての数々の運用における失敗や恐怖の経験、その失敗や恐怖の原因について客観的に顧みた経験、また、単に顧みるのでなく、それら原因を“言葉”や“数字”を使って整理してきた積み重ねに由来するに違いない。これと同レベルの経験やスキル蓄積にまで、普通の法人の役職員が到達するのは、今後将来にわたっても、かなり難しいのではないだろうか。
つまるところ、事実上、殆どの法人は、①プロパーの運用担当として雇い入れるか、②ボランティアに近い不定期の顧問として招聘するか、③外部コンサルに契約でサポートを受けるか、のいずれかの方法でしか、より洗練された“外部の資産運用キャリア経験者の見識”にはアクセス出来ないのである(勿論、それら外部の資産運用キャリア経験者には、
運用の見識のみでなく、それを法人の運用制約の元でバランスさせる感覚も必須である)