2019.07.30
法人資産の運用を考える(10) 一般常識で理解できる資産運用の原理原則(2)リスクとリターンを均衡させる『分散』
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
資産運用や金融の仕組みを正しく理解し、成功への道を歩むには、高度な知識や複雑さは必要ない。必要なのは誰もが備えている常識的な見方、考え方だ。しかし、今日の資産運用サービスの提供者(銀行、証券会社、コンサル、運用会社など)からは、このような自明の理を表立って聞くことはないだろう。その代わり、資産運用は非常に複雑だということや、自社のアドバイスやリサーチ、専門性こそがクライアントの運用目標を達成する為には必要なのだと聞かされるだろう。
では、一般常識で理解できる資産運用の原理原則とは何か? 前回は、預貯金、債券、株式など代表的な資産運用において収益(リターン)として認識される利子、配当、キャピタルゲインの源泉・大元を辿れば、全て同じく、他人・他の主体の経済活動に行き着くことを説明した。逆に、リスクの源泉・大元は全て、資金融通先である他の個人・企業・政府などの経済活動が「劣化」、おかしくなってしまうことに絞り込まれるとお話しした。
一般には、このようなリスクを避けてリターンを得るには、正しい対象に正しいタイミングで投資することだと思われている(あるいは、専門家がそれを代わりに上手く行ってくれる金融商品を選ぶべきだと信じ込まされている)
しかしながら、資産運用のリスクとリターンを均衡させるには、そんな難しい事は必要ない。正しい対象や正しいタイミングを選ばずとも、ただ単純に金融市場や経済全体に「分散投資」して、それを保有し続ければ良いのである。
第一に、投資を分散すればリスクを軽減できることは、一般常識を働かせればすぐ理解できよう。例えば、日本株の例でいえば、トヨタ株⇒トヨタ株+マツダ株⇒自動車関連企業全体⇒自動車関連企業全体+それ以外の産業の株式へと分散を進めてゆくほど、確率的なリスクは小さくなる。究極的には、上場株式すべて≒日本経済全体への投資にだんだん近似してゆく。
第二に、このような分散を進めて保有した上場株式すべて≒日本経済全体への投資から生じ続ける配当金とキャピタルゲインの総和が未来永劫、マイナスの値しか示さないとしたら、どうなるか? 常識を働かせて想像してみると良い。誰も株式を保有したいとは思わなくなり、株式や株式市場の存在意義は無くなる。現在の経済や金融の仕組みがひっくり返ってしまう状況を示すこと、日常的に営まれている現実の経済活動とは相いれない状況を示すことだということは、投資に詳しく無い人にでも直感的に悟ことができるのではないだろうか。
このように、個々に正しい対象や正しいタイミングを選ばずに『(金融市場全体≒経済全体に)分散』できる資産は、何も日本株のケースだけでは無い。その他、日本のREIT(不動産)や外国の株式、REIT(不動産)、債券などについても同様の思考プロセスによって、≒
世界経済全体から生じ続けている利子配当、キャピタルゲインの総和を、自らの資産運用の果実とすることも、『分散』を推し進めてゆくことで可能なのである。
またこれが、今日、公益法人の一担当者が個別銘柄の債券、外債、REITや株式を選び続ける運用スタイルはリスクが大きい、今後は維持できなくなるであろうと申し上げている理由でもある(個別銘柄投資は間違うリスクと常に背中合わせであり、間違った時のダメージは非常に大きい)。
以上