2019.09.30
法人資産の運用を考える(12) 一般常識で理解できる資産運用の原理原則(4)利子配当収入と運用元本のクオリティ(普遍性と継続性)という視点
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回は、なぜ日銀は、損失が許されない公金で、TOPIXなどの金融市場指数連動型ETFに投資することができるのだろうか? その背景について、一般常識を働かせて考察してみた。今回は違う視点から、このような金融市場指数連動型ETFへの投資について考察してみたい。
それは、法人が必要とする、利子配当収入とそれを生み出す運用元本のクオリティ(普遍性と継続性)が備わっているか? という視点である。
例えば、一般的な預金や国債は、利子配当収入と、それを生み出す運用元本とのクオリティは強固かつ安定的であるといえる(ただし、目に見えないインフレを加味した場合、話は異なるのであるが、、、)。つまり、少なくとも、約束された利子収入と償還金とが支払われる源泉、支払われる構造を考慮した場合、それらが“反故”にされる確率は極めて低いと考えられる。だから、もしも市場金利が3%程度あれば、資産運用の専門家とは言えない担当者しか置けない公益法人や学校法人では、預金や国債を選好する方が間違いなくセーフであろう。しかし、残念なことに、現在、預金も国債もゼロ金利になって久しい。
このような環境下で、運用益を必要とする場合どうするか? 法人の対応は概ね2通り考えられる。
一つ目は、預金や債券などという『形式』を最優先して、運用収入を追求し続ける方法。仕組み預金、社債、劣後債、仕組債など、特殊な預金・債券などへと傾倒する運用がこの部類に入る。しかしながら、このやり方は、利子配当収入とそれを生み出す運用元本の長期的なクオリティ(普遍性と継続性)を著しく落とすことになる。金利・為替・その他市況や発行体の業績の変化、運用担当者の選択によっては、利子配当収入の金額や運用元本の質は大きくぶれる、あるいは復元が困難になるほど劣化してしまうリスクと表裏一体の運用になる。(担当が個別で外債・REIT・株式で運用する場合や、銘柄選択や投資タイミングの秀逸性を売り物にするファンドマネージャーなどに良く判らないまま運用委託してしまう場合も、これと同様の問題を抱える)。
二つ目は、利子配当収入とそれを生み出す運用元本のクオリティ(普遍性と継続性)を最優先して、シンプルな枠組みで考える方法である。株式市場、REIT市場、債券市場から生み出されている利子配当金の総和を運用収入、それらを生み出している市場を運用元本とする方法である。前者の方法に比べて、クオリティ(普遍性と継続性)に勝るのは、一般常識で考えても自明ではないだろうか(利子配当収入の源泉は、市場に含まれる様々業種の何十~何千銘柄という有価証券であり、運用元本はそれら全てなのだから)。
つまり、普遍的かつオーソドックスな金融市場を再現する指数連動型ETFを『選択』す
るということは、利子配当収入と運用元本のクオリティ(普遍性と継続性)を最優先するという意味では、かつての預金や国債での運用とも相通じる筋が一本通るのである。
勿論、元本保証とは言えなくなる。また、金融市場全体と同じぐらいの価格変動の大きさに甘んじなくてはいけない。しかし、利子配当収入と運用元本のクオリティを健全に保つには、運用財産の内容を金融市場(≒経済全体)の縮図にしておく方が理にかなっている。
以上