2020.02.16
法人資産の運用を考える(17) 核とならない資産(4) 私募REIT、インフラファンド、未公開株ファンドなど(流動に乏しい資産、市場価格が無い資産)
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
やってみないと最終的に判らない、価値が消滅あるいは、大きく減価したまま回復しないリスクを伴う資産は、「核とならない資産」として、拙著『新しい公益法人・一般法人の資産運用』において列挙、詳しく解説している。前回は、株式やREIT(個別銘柄投資 母体企業株式を含む)について指摘した。今回は、私募REIT、インフラファンド、未公開株ファンドなど(流動に乏しい資産、市場価格が無い資産)を挙げたい。
近年、学校法人・公益法に対しても、金融機関からの私募REITの売り込みが過熱しているようである。なぜか? それは上場(公募)REITと異なり、独自組成となり、それを担当する(関連)運用会社、(関連)信託銀行に手数料や管理報酬が新たに落ちるからである。更に、運用会社と信託銀行の間に、金融機関自身が投資顧問業者として入れば、投資顧問報酬も投資家に対してチャージできるからである。一方、投資家に上場(公募)REITやREIT指数連動型の上場投資信託(ETF)を買われたのでは、彼らは株式の取次手数料以外にチャージすることはできない。
そもそも、私募REITの中身は、=上場(公募)REITと同じ個別銘柄(個別REIT法人の株式・受益権)であるため、前回の個別銘柄投資と同様の問題を抱える「核とならない資産」に分類される。
では、学校法人・公益法人は、私募REITの売り込みの何処に一番、反応しているのだろう? それは、疑いなく“私募形式のREITであれば、価格変動を小さく出来ますよ”というセールストークに違いないのである(事実、私募REITの予想分配利回り自体は、上場(公募)REITやREIT指数連動型ETFに比べても特別に高いという印象は無い。それどころか上記の諸費用控除後利回りでは上場REITの水準を下回るものも珍しくない)。
私募REITには市場価格というものが存在しない。であるから年1回あるいは数回、(金融業者とは利害関係が無いと言われる)鑑定士評価を元に算出された価格に更新される(その算出価格を基準に私募REITの追加投資や解約に応じるのが一般的である。すなわち、換金性や流動性には非常に乏しい資産となる)。
このように価格変動が小さく出来ると言われる資産には、次の関係式が成り立つ。いつでも取引できる公開された市場価格というものが存在しない資産 = 換金性や流動性には非常に乏しい資産、というメリット/デメリットがトレードオフの関係となる資産なのである。しかも、投資の中身は非常に個別性が強い(特定の個別銘柄、個別プロジェクトである)。同様の関係式は、他の価格変動が小さく出来る投資対象と言われるインフラファンド、未公開株ファンドなどについても成り立つ。
法人の運用担当役職員が未熟で短視眼的な場合、真っ先に、なるべく価格変動が小さくて、インカムなどの収入が得られそうな投資対象へと“逃げ込もう”とする「習性」がある。逃げ込んだ先に万が一のことが有れば、抜き差しならない状態に陥ってしまうという、公金を扱う者として、最も考慮しないといけないリスクの方は、後回し、あるいは自ら精査しようとしないのである。また、金融機関は、このような彼らの「習性」を良く熟知しており、それを突いた営業活動は、時を変え、品を変え、ずっと続いている。
もういい加減、法人側も、それに気が付き、何を真っ先に考慮しないといけないのか、再考しないといけない。
以上