2020.04.30
法人資産の運用を考える(19) 番外編:パニック時における資産運用チェック(2) 対照的な、パニック時の対応 <A法人とB法人>
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
前回は、番外編として、パニック時の資産運用チェック項目、(1)運用収入は安定的か? (2)運用元本の落ち込みは一時的か? について解説した。(1)(2)が概ね「イエス」であれば、どんなパニックが来ようとも、嵐が過ぎ去るのを待つだけである。今回は、A法人とB法人の対照的な、パニック時の対応について触れてみたい。
A法人は、世界の主要な金融市場と市場平均利子利回り、配当利回りを複製するETF(上場投資信託)を使って、グロバール株式市場、グロバールREIT(不動産)市場、グロバール債券市場に分散投資している。政策的な資産配分比率は、株式市場15%、REIT(不動産)市場10%、債券市場(外貨建て)15%、債券市場(日本国債あるいは為替ヘッジ外債)60%、と予め定めている。
今般のコロナ・パニックでは、株式市場が平均で約▲30%、REIT(不動産)市場で約▲40%、その他国債を除く社債市場は約▲10%~▲20%も下落した。一方で日米の国債は著しく上昇したのである。A法人のポートフォリオ運用も全体で一時▲10%を超える価格下落に見舞われている(3月29日の現時点)。
しかしながら、市場平均価格が下落したとはいえ、何十~何千銘柄から構成される市場平均利回りや市場平均配当利回りの支払いが停止・激減してしまう訳では無い。A法人が事業に必要とする利子配当の運用収益見込みは、2020年度も変更する必要は無いと考えている。また、金融市場の平均価格は、リーマンショック時も含めて、浮沈を繰り返しているが、最終的には回復・復元している。今回の価格下落も長い目で見れば、一時的なものと考えている。したがって、世界の主要な金融市場と市場平均利子利回り、配当利回りを複製するETF(上場投資信託)を使ったA法人のポートフォリオについても、長い目でみれば、連動して回復・復元するものと構えている。
さらにA法人では、大きく下落して資産配分比率の小さくなった株式やREITなどを増やし、そうでない国債やその他債券を減らして、元々決めた資産配分比率まで均衡させるリバランスを始めている。リバランスは相場観に基づくものでは無く、政策的に決められている資産配分比率に基づいたポートフォリオ運用におけるリスク管理のルールである。と同時に、リバランスは、結果的に、価格上昇して利回りの低くなった国債等の保有比率を一定まで減らし、価格下落して利回りの高くなった株式、REIT(不動産)、その他外債などの保有比率を一定まで増やす、ということでもある。
一方のB法人。仕組債、高配当利回りの個別株式や個別REIT、劣後債を含む個別社債で運用していたが、既に、仕組債などでは、市況パニック=利払いの停止あるいは激減が顕在化している。今後の景気、個々の企業業績・信用リスクの行方しだいでは、個々の株式、REIT、債券などの発行体にも回復困難な深刻なダメージが出てくるかもしれない。しかしながら、既に、打つ手は無く、息を殺して成り行きを見守るしかない。もはや、脱出困難な、抜き差しならない状況に陥ってしまっているのである(どうしようも無いので、“思考停止”の状態と言っても良いかもしれない)。
以上