2020.08.03
法人資産の運用を考える(22) 核とならない資産(7) 周辺国・周辺通貨への投資、周辺資産への投資
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
やってみないと最終的に判らない、価値が消滅あるいは、大きく減価したまま回復しないリスクを伴う資産は、「核とならない資産」
として、拙著『新しい公益法人・一般法人の資産運用』において列挙、詳しく解説している。
前の回では、ESG、SDGsその他、環境・社会・道徳・慈善的な要素などを前面に打ち出した投資商品について指摘した。
今回は、周辺国・周辺通貨への投資、ならびに周辺資産への投資を挙げたい。
世界的に見てメジャーではない特定の国の資産、通貨への投資は比較的大きなリスクを背負い込む。
マイナーあるいは比較的に小規模ゆえ、そうでない場合に比べ、経済状況が急変すると、資産や通貨の価値に大きな影響を受けやすい。
また、その後、回復・復元するか否かも、その国次第となる。流動性もメジャーでない国の資産、通貨の場合、一般に劣っている場合が多い。
例えば、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンから、ブラジルレアル、トルコリラ、南アランドへの投資に至るまで、巷には様々な国や通貨への投資商品で溢れている。
幅広い国々、通貨への分散投資の一環として、一部、このような国々の資産・通貨をポートフォリオに含んでいるのは構わないが、いきなり、特定の周辺国資産・通貨だけを“切り取って”十分に分散されない投資を行うのは感心しない。
同様に、世界的に見てメジャーではない資産、歴史の浅い資産についても、いの一番に投資したり、ポートフォリオのかなりの割合をそれらに投資したりすることはお勧めしない。
例えば、バンクローン、CLO(Collateralized Loan Obligation)、カバード債、大災害債など保険証券化商品、その他アセットバック証券などが最近の流行である。
近年、世界的に国債を含む普通債の利回りが総じて低下していること伴い、債券運用を行う機関投資家、法人投資家の運用利回りの下降も著しい。
そこで、様々な種類のアセットバック証券を束ねた金融商品にまで、為替ヘッジを掛けて、円建て債券の代替運用とする流れとなっている。
アセットバック証券とは一般に、金融機関が保有する債権を担保として発行される証券化商品である。
企業向けローン債権、住宅ローン債権、クレジットカード債権、リース債権、自動車ローン債権から保険料債権まで担保の対象は多岐にわたる(言い換えれば、何でも有り。
今後も様々な債権を対象とする新種のアセットバック証券は次々と“発明”され続けるであろう)。その一部ではあるが、簡単に説明すると、バンクローンの中身は比較的信用度の低い企業への貸し出し債権である。
また、本邦大手金融機関が大量に保有していることが報じられているCLO(Collateralized Loan Obligation)は、上記のバンクローンを切り分け、更に、もしもの時の弁済順位の優劣(=格付け)を付けて、束ね直したものである(かつてのサブプライムローンと酷似した組成構造)。
さて、これらのマイナーな資産、歴史の浅い資産は、一般に流動性にも乏しく、担保証券を取り巻く環境の些細な変化で大きな影響を被るリスクが有る
(中には、流動性が低い資産=価格変動が小さい、と考える確信犯的な投資家も存在するが、流動性が低い資産=ある日突然、資産価値が急落し、抜き差しならない状態に陥るリスクを抱える資産なのである)。
世界のメジャーな株式市場、債券市場、不動産市場(REIT市場)を保有ポートフォリオにおいて既に押さえたうえで、更なる分散投資の一環としてこれらの周辺資産にも一部を“賭け”てみるのも構わない。
しかしながら、いの一番に投資したり、ポートフォリオのかなりの割合をそれらに投資したりする性格の資産では決して無いことを肝に銘じられたい。