2020.09.03
法人資産の運用を考える(23) 核とならない資産(8) 商品、為替取引、他、需給による価格変動のみに依存する資産利子配当(売上・利益・所得)という経済的な付加価値を生まない資産
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
やってみないと最終的に判らない、
価値が消滅あるいは、
大きく減価したまま回復しないリスクを伴う資産は、
「核とならない資産」として、拙著『新しい公益法人・一般法人の資産運用』において列挙、詳しく解説している。
前の回では、周辺国・周辺通貨への投資、ならびに周辺資産への投資について指摘した。
今回は、商品、為替取引、他、需給による価格変動のみに依存する資産=利子配当(その裏付けとなる売上・利益・所得)
という経済的な付加価値を生まない資産への投資を挙げたい。
かつて、ビットコインをはじめとする一大仮想通貨投資ブームが世の中を席巻したことは、皆さんの記憶にも新しいのではないか。
さて、ビットコイン自体は何か利子や配当という付加価値を生まない。
もちろん、株式や債券、賃貸不動産のように付加価値の源泉となる売上、利益、所得という+αを生み出す仕組みを内包している訳でも無い。
単なる“物”である(実体の無いバーチャルな存在なので“物”という定義すら当てはまらないのかもしれない)
いずれにしろ、多くの投資家が仮想通貨に殺到してしまった。
売上、利益、所得など資産価格を測る基準や、利子・配当利回りという他資産との相対的な収益水準の比較も無いシロモノである。
唯一の収益の源泉は、取引需給のみに依存したキャピタルゲインである。
それは将来、誰かが、自分の買った値段よりも高く買ってくれるだろうという思い込みの他に、何の合理的・経済的な尺度は何も存在しないのである。
仮想通貨と同様に、希少価値、将来の需給ひっ迫の予想など、様々な思惑で取引されている“物”は数多い。
農産物、エネルギー、金属、金を含む貴金属、不動産(賃貸に供されていない底地・建物)なども、利子配当(その裏付けとなる売上・利益・所得)という経済的な付加価値を生まない資産と言える(これらには一定の利用価値があることは認めるが、殆どの投資家の狙いは、利用価値を見込んだ需給要因からのキャピタルゲインである)。
また、このようなキャピタルゲイン・価格変動ほど、法人運営にとっては、当てにできないものはないのである。
なので、商品ファンド、あるいは商品ファンドや商品先物を組み入れた投資商品、または農産物、エネルギー、金属、金を含む貴金属、不動産(賃貸に供されていない底地・建物)などは資産運用の核にはできないのである。
十分に分散されたポートフォリオを持つ投資家が、保有資産の更なる分散の為に、一部をこのような資産に“賭けてみる”なら構わないが、いの一番に、かなりの割合を投資するのは感心しない。
最期に、仕組債等に内包されている参照外国為替レート、クレジットデリバティブ、参照ファンドパフォーマンスなども全く同じ構造であることが判る。
外国為替レート、クレジットデリバティブ、ファンドパフォーマンスという、キャピタルゲイン・価格変動の如何で、受取利息や早期償還、債券価格などが決まる。
非常に不安定極まりない参照資産の価格変動を頼みに、薄氷の上で投資成果を祈るようなものである。
仕組債は一般の債券と同じであると誤解している法人投資家は今だに数多いが、参照資産の価格変動の如何という“賭け”に、元来は堅実であるべき法人運営を晒してしまっているのである。