2020.09.10
コロナ渦において母体企業の株式保有を考える
粟津 久乃
財団における公益目的事業の財源について調べると、おおよそ35%の財団において、財源が母体企業の株式より発生する配当に頼っていることがわかります。
母体企業の株式寄贈により創設された経緯を持つ財団にとって、母体企業の株式は、財団そのものの創設意義にもかかわる非常に重要な部分です。
それゆえ、多くの財源が、母体企業の株式1銘柄に集中するリスクがあったとしても、問題視されてこない歴史がありました。
母体企業の株式を保有する理由
- 創設者の寄付であり、設立趣旨からも維持する必要がある
- 母体企業の配当により、財源を補っている
- 財団が母体企業の安定株主である
- 相続対策
これらの理由より、母体企業の株式の配当に依存する実態については、仕方ない、問題ない、という財団が多かったようですが、
ここ最近、この母体企業の保有についての考えに変化が生まれてきました。
母体企業の保有についての変化の要因
- ①コロナ渦において、企業の選別が行われる中、長期的に安定した配当を得られるか、不安が生じている
- ②東証の市場改革により、上場制度の見直しが発表され、流動性も上場条件となること
この①に関しては、コロナ渦は変化が求められる分、変化を受け入れやすい側面があり、討論しやすい状況から議論になっているという経緯もあると思います。
過去も、母体企業の株式が増配・減配を繰り返す中で、財団の安定収益を得られず、時には、母体企業に声をかけて一部売却して穴埋めしてきた財団もあるでしょう。
一つの株式に依存することにより、本来の公益事業が立ち行かなくなるかもしれない、という危機感は過去から考えていた運用担当者もいるかと思います。しかし、そういった本音は財団の成り立ちからアンタッチャブルでありましたが、このコロナ渦では、考えざる負えない状況も出てきました。
この変化の時こそ、本来の「公益事業の継続」のために如何に財団が将来を考えるか、母体企業の株式に依存する形態を議論するタイミングなのかもしれません。
一方、②の東証の市場改革については、2020年7月29日に「資本市場を通じた資金供給向上のための上場制度の見直し」が発表されており、上場においては流動性、ガバナンス、経営成績・財政状態から要件が新たに定められることが決定しております。施行は2022年4月です。
その市場改革において、財団にとっても重要なのは、流動性に関わる部分です。今後の上場基準においては、資本の効率化のため、安定株主は除いて流動性をカウントすることになります。そのため、その基準を満たし、全体の流動性を高めるためには、財団が保有する安定株主としての大量株式について、売却が求められる場合があるのです。
今までは、母体企業が財団の保有株による議決権をよんでいるから売却できない、という状況がありましたが、
逆に母体企業側から、売却依頼が来るケースは既に出ております。そもそも、企業のガバナンスの観点から考えれば、市場に上場するということは、流動性を高め、正しい株価という評価をもらい、その評価をもとに企業は企業価値向上へ努力を行う構図があります。その本来あるべき姿に戻るというだけです。
こういった②に関しての議論も始める時期かもしれません。
以上2点の観点から、母体企業の株価について触れましたが、では、財団が具体的に①や②を要因として、どう考えるべきかについて思考したいと思います。
具体的にどうすべきか
単純にこの議論は
安定株主を優先するのか
公益事業を優先するのか
など、立場上のいずれかを100%優先させるのではなく、どの程度の割合ならば、財団の収益として、両立するのかを規模や運用利回りから考えるべきでしょう。
安定株主として、何%保有株式を減らしても大丈夫なのか。
公益事業として、あと、どの程度の安定収益があれば、運営に支障がないのか。
財団の中期計画を立て、配当の減配によるシュミレーションなども行い、問題点を具体的に顕在化させて、議論の必要があると思います。
それでも母体企業の明暗は、財団の将来もリンクするのが妥当という考えの財団担当者も多くいると思います。
創設趣旨から考えれば、確かに母体企業の株式を減らすのは難しいと思います。
しかし、その割合を減らし、如何に財団の収支のバランスをとっていくかを検討することは可能ではないでしょうか。
財団運営における、長期的に公益事業を継続できる形に模索するとても良いタイミングではあると思います。