2020.09.10
資産運用は単純に他の資産運用を真似てはいけない
粟津 久乃
公益法人が資産運用を行うとき、他法人の資産運用の方法が気になり、様々な法人がどのように資産運用しているのか調べることもあるでしょう。
有名な年金基金やアメリカの大学の資産運用の資産配分比率をご覧になった方も多いでしょう。
しかし、他の法人の資産運用を参考にすることにはあまり意味がありません。
単純に他の資産運用を真似てはいけないのはなぜでしょうか。
資産運用を長期に渡って公益法人に収益が生まれる構造にする方法を考えると、なぜ単純に他の法人の資産運用を真似てはいけないかがわかります。
~真似てはいけない理由~
◇投資目的の違い
例えばGPIFは長期的に年金積立金を運用することが目的であり、将来の支払い時期に目標利回りを達成することを目標に、運用を継続していきます。
つまり、将来の時点で成果を上げる運用を行い、毎期の安定収益は必要ないのです。
一方、皆様の投資目的はどうでしょうか?
長期的には資産を膨らませるキャピタルゲインを想定しつつも、基本的には毎期継続して安定収益をあげることが必要とされるでしょう。
目的がそもそも違うのだから、GPIFの資産配分比率を参考に資産運用を行うことには意味が無いのです。
◇会計処理の違い
GPIFは将来の一定の支払い時期まで、運用目標を達成すればよく、毎期の評価損は問題にならないのです。
また、アメリカの大学においては、運用する部門は別法人となっており、そこから、大学法人にその期に必要な収益分を吸い上げる形になっています。
そのため、別法人においての毎期の評価損失は母体の大学には影響がない形になります。このように、年金基金やアメリカの大学などとは、会計処理が異なります。
公益法人は毎期決算を迎え、その資産運用の結果を財務報告しなければなりません。大きな評価損等は、財務諸表の注記への記載も必要となります。
収支相償の考えに基づき、毎期、会計を締めていかなければならないのです。
学校法人の場合は、大きな50%以上の評価損失があるならば、強制評価減の処理も必要となります。
このように会計上の制約が異なると運用の手法も変わります。
◇組織としての違い
年金基金の場合、基本的には、組織そのものが年金運用を本業としており、自分たちの将来の年金の目標リターンのため、業務を遂行していきます。
一方、公益法人の場合は、担当者が金融のプロではないケースも多く、運用担当者も変わり続けます。
資産運用は財団法人・学校法人を運営する中での一部でしかありません。
多くの関係者は、資産運用とは関係のなく、理事会・運用委員会・労働組合・母体企業、において様々な登場人物がいて、様々な考えが発生し、組織として継続して同じ意思で同じ手法の資産運用を行うことが難しいという実態があります。
多くの関係者が納得して、資産運用を継続するには、単純に他の資産運用を真似するのではなく、その組織に合ったものである必要があります。
以上、3点について触れましたが、他人の資産運用を単純に真似てしまうと、その本質を理解することができません。
資産配分比率も、その公益法人がその組織の制約条件、目的を勘案して作成したものでなければ理解できず、継続することが出来なくなってしまうでしょう。
理解できず、そのまま模倣してしまうものには、金融機関から勧められて買うSMA(ファンドラップも含む)や年金コンサルの提案を鵜呑みにするというのもあるかもしれません。
ただ、勧められた既製品に公益法人がサイズを合わせるのではなく、公益法人独自のサイズに合ったものを作り出す必要があると思います。
資産運用は、その投資目的も、制約条件も、皆様それぞれの公益法人とは異なり、単純にそれを真似ても「継続すること」ができないのです。
資産運用というものは、継続することにより収益を重ね、マイナスの値をとる確率を減らします。
「継続すること」(継続できる資産運用を行うこと)これは、とても重要な要素です。
公益法人が運用の目的とする
・期間収益を得ること
・長期的にキャピタルゲインを得ること
この2つは長期で運用を継続されることで積み上げられていくものです。
継続できなければ達成できません。
他の法人の資産運用を真似ることなく、独自の制約条件のもと、独自の資産配分比率を模索し、長期に組織が納得し継続できる資産運用を探すことが大事であると考えます。