2020.09.30
法人資産の運用を考える(24) 法人が負っているフィデュシャリー・デューティー(受託者責任)(1) 受益者に対する責任、社会的な使命
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
近年、金融庁の指導の下、銀行、証券などの金融界では、
フィデュシャリー・デューティー(FD fiduciary duty 受託者責任)
という言葉が、一躍クローズアップされるようになった。
金融界でいえばFDとは「顧客本位の業務運営」を指す。
すなわち、金融機関等が顧客の利益に適う金融商品・サービスを提供するための業務運営を求めているのである(顧客の利益を損なう、利益相反することは絶対に回避しなければならない)。
FDの概念は、しばしば、信託契約等に基づく受託者が負うべき義務を指すものとして用いられていたが、近時ではより広く、他者の信任に応えるべく一定の任務を遂行するものが負うべく幅広い様々な役割・責任の総称として用いる動きが広まっており、政治・行政、医師、弁護士などは勿論のこと、その他の多くにも当てはまる。
学校法人や公益法人などの多くの非営利活動を行う法人も、同様のフィデュシャリー・デューティー(FD fiduciary duty 受託者責任)を負う主体であると考える。
それは、
学校法人においては教育・研究活動の機会を提供し続けるという使命であり、
公益法人においてはそれぞれのサービスを世の中、その受益者に対して提供し続けるという使命である。
であるので、それぞれの受益者へのサービスを滞らせるような状態を放置してはいけないし、それに陥る大きなリスクが有るのであれば排除、改善していかなければいけない責任を負っている。
受益者の利益を損なう、利益相反してしまうことは絶対に避けなくてはいけない。
組織の内輪だけで安穏としていてはいけないのである。
そういう意味では、普段から対峙している銀行、証券などの金融界に求められているものと本質的には同じ責任を、それぞれの法人の側も負っているのである。
例えば、企業系公益法人や国や自治体系公益法人が、何よりも、スポンサーとの関係性を最優先させたり(母体企業株式、法人の天下り・出向・転籍ポストの問題など)、
また、学校法人などでも、組織内での“曖昧な調和”を最優先したりして、肝心の受益者サービスが疎かになってしまうのであれば、
厳密に言いえば、現在あるいは中長期的に受益者の利益を損なう、利益相反してしまうことに繋がる。
それぞれの法人の、それぞれの受益者サービスを維持・発展させるという使命を一番に置き、そこから逆算して、組織のあらゆることを改善し続けてゆく。
その為には、組織外の誰か、あるいは組織内の誰かの“顔色をうかがう”“忖度する”“任期中の事なかれ主義”という状況が過ぎる限り、永遠に変わらない。
法人がある程度、独立(independent)な状態、心持ちで在るということが、それぞれの法人に課されている筈のフィデュシャリー・デューティー(FD fiduciary duty 受託者責任)の遂行に不可欠なのである。
各法人が実施している資産運用についても同様である。
ぞれぞれの使命を遂行し続ける為の資産運用には何が必要か?
もしも、それが従来のままでは内部調達が難しいのであれば、優秀な外部の力を借りてでも、必要な体制は整えるという責任が有る(個人の資産運用ではずっと我流を続けても構わないが)。
それが、フィデュシャリー・デューティー(FD fiduciary duty 受託者責任)を負う法人本来の姿である。