2020.12.02
法人資産の運用を考える(25) 法人が負っているフィデュシャリー・デューティー(受託者責任)(2) 受益者に対する責任、社会的な使命を果たすための法人資産運用
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
学校や財団法人などが負っている責任・使命とは、教育・研究活動の機会を提供し続けるという責任であり、
公益法人においてはそれぞれの慈善サーピスを世の中、その受益者に対して提供し続けるという使命である。
それぞれの受益者へのサービスを滞らせるような状態を放置してはいけないし、それに陥る大きなリスクが有るのであれば排除、改善していかなければいけない責任を負っている。
受益者の利益を損なう、利益相反してしまうことは絶対に避けなくてはいけない。
銀行、証券などの金融界や年金基金運用においては、受益者(顧客や年金受給者)の利益を損なう、利益相反してしまうことに対しては厳しい目が向けられる。
フィデュシャリー・デューティー(FD 受託者責任)と呼ばれるこの概念は、本質的には、学校や財団法人の経営・運営と、それをファイナンスする資産運用とについても同様に当てはめて考えることができる。
(1)超保守的な預金/債券運用
もはや、伝統的な定期預金や日本国債などの公債では、経常的な公益事業のサポートや将来の財務基盤への備えは厳しい。
事業規模を縮小するか、財産を取り崩して事業規模を維持するか(やがて事業継続は困難になるが)、選択肢は狭まってゆくのは避けられない。
(2)リスキーすぎる資産運用
近年、(1)の状況を回避しようと、短期的な収益UPだけを追い求めて、リスク管理を蔑ろにしたリスキーすぎる資産運用に手を広げてしまう法人も少なくない。
①個別銘柄(一般社債、劣後債、各種仕組債、グリーンボンド、上場REIT、私募REIT、(高配当)株式など)
②各種ファンド(高配当株ファンド、ESGファンド、未公開株ファンド、インフラファンド、ヘッジファンド、その他アクティブ運用ファンドなど)
である。
これらの選択は間違ってしまう可能性も大きい(当初は有効でも、時間の経過と共に法人に弊害をもたらす可能性も大きくなる)。
だから、その兆しを見逃さないよう常に注意深くモニターでき、必要であればロスカットも含めて、法人自らの判断と責任で見直すことが出来るという、より高度な能力と大きな覚悟が必要となる
(これらは“賭け”と“運”の要素に、より支配される世界なのである)。
そこまでの能力と覚悟を持って、これらで資産運用している法人はどれぐらい有るだろうか?
そんな悪い事態は起こる筈がない、起こったとしても自分の任期中でなければそれで良い、その時は銀行・証券会社・年金コンサルなどが知らせてくれる、情報・アドバイスをくれる筈、とタカを括っている。
しかしながら、銀行・証券会社・年金コンサル、あるいは他のどんなプロと呼ばれる人たちでも、その実、将来のことが判る人など一人も居ないことは常識的に考えれば自明なのである。
(3)母体企業株式(個別銘柄=企業系財団など)
企業系財団などが長年保有し続けている母体企業株式も、今後はより議論が必要となろう。
母体企業の方を向くか、慈善サービスの受益者の方を向くか、というバランスの改善が求められ続けよう。
以上の(1)(2)(3)について、学校や財団法人の受益者の利益を損なう、利益相反してしまうことの無いような資産運用の在り方の議論が今後いっそう活発になってゆくことを期待したい。