2020.12.03
法人資産の運用を考える(26) 法人が負っているフィデュシャリー・デューティー(受託者責任)(3) 受益者に対する責任と内部人材、体制整備、自家運用の限界
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
学校や財団法人などが負っている責任・使命とは、教育・研究活動の機会を提供し続けるという責任であり、
公益法人においてはそれぞれの慈善サーピスを世の中、その受益者に対して提供し続けるという使命である。
それぞれの受益者へのサービスを滞らせるような状態を放置してはいけないし、それに陥る大きなリスクが有るのであれば排除、改善していかなければいけない責任を負っている。
受益者の利益を損なう、利益相反してしまうことは絶対に避けなくてはいけない。
フィデュシャリー・デューティー(FD 受託者責任)と呼ばれるこの概念は、
本質的には、学校や財団法人の経営・運営と、それをファイナンスする資産運用とについても同様に当てはめて考えることができる。
つまり、
(1)超保守的な預金/債券運用も、
(2)リスキーすぎる資産運用も、
- 個別銘柄(一般社債、劣後債、各種仕組債、グリーンボンド、上場REIT、私募REIT、(高配当)株式など、にいきなり投資すること)
- 各種ファンド(高配当株ファンド、ESGファンド、未公開株ファンド、インフラファンド、ヘッジファンド、その他アクティブ運用ファンドなど、にいきなり投資すること)
(3)母体企業株式(個別銘柄=企業系財団など)も
学校や財団法人の受益者の利益とは最終的に相反してしまう恐れがある。
さて、このような状態が放置されてしまう原因には他にもいろいろあるが、
大きな要因の一つは、法人内部に資産運用の適任者が居ない、確保できない、育てられないということなのでは無いかと思う。
平均的な法人資産運用の責任者やスタッフには、総務、会計、その他の管理部門の出身者が就任しているケースが圧倒的に多く、およそ法人の資産運用に携わったキャリアを持っている人材は殆ど居ないのが普通である。
さらに、往々にして、彼らの殆どが数年おきに異動、交替を繰り返している。
だから、頑なに、定期預金や国債を切り替え続けたり、母体企業株式を持ち切ったりする前例踏襲運用を続ける。
あるいは、素人判断で、いきなりリスキーすぎる資産運用へと見切り発車してしまうのである。
しかし、スキルと経験が浅い、もしくは無い故、債券の信用格付けとか、証券会社など金融機関からの情報や提案とかが無ければ、能動的、主体的に業務を進めることは難しいのである。
言うまでも無く、このような
資産運用管理体制を放置し続ける最終責任は、法人の役員(会)
にある。
個人資産の運用など、自分の為にお金を運用する場合には受託者責任は問われない。
しかしながら、他人の為にお金を運用管理している場合は全く異なる。
これまでの我流・自己流の資産運用や管理体制で上手くいかない時、また将来上手くいかなくなる恐れのある時は、ちゃんとした適任者を見つけて外部から招へいしたり、外部のリソースの力を借りたりしてでも、法人の目的にかなう資産運用とその管理を行う責任が有るのである。
それは、受益者の利益を損なう、利益相反してしまうことは絶対に避けなくてはいけないという法人が本来負っている筈の責任とオーバーラップしているのである。