2021.01.14
法人資産の運用を考える(27) 法人が負っているフィデュシャリー・デューティー(受託者責任)(4) 資産運用についてエキスパートを外部から招聘・契約する場合の適任者の条件と留意点
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
個人資産の運用など、自分の為にお金を運用する場合には受託者責任は問われない。
しかしながら、他人の為にお金を運用管理している場合は全く異なる。
これまでの我流・自己流の資産運用や管理体制で上手くいかない時、
また将来上手くいかなくなる恐れのある時は、
ちゃんとした適任者を見つけて外部から招聘したり、
外部のリソースの力を借りたりしてでも、
法人の目的にかなう資産運用とその管理を行う責任が有るのである。
法人が提供する公益事業や教育・研究事業の受益者の利益を損なう、
利益相反してしまうことは絶対に避けなくてはいけないという責任
を法人は負っているのである。
そして、言うまでも無く、このような資産運用管理の最終責任は、法人の役員(会)に有る。
では、法人が、資産運用についてエキスパートを
外部から招聘、契約する場合の適任者の条件とは、どうものであろう。
それは、彼(彼らが)が法人に提案する資産運用の内容について、
(1)「他の役職員にも理解、管理できる範囲内にずっと留めること」
(2)「他の役職員にも理解、管理に関与できるよう、粘り強くコミュニケーションできること」
の2つではないだろうか。
なぜなら、
公益法人や学校法人の場合、超長期に、あるいは半永久的に
資産運用を続けてゆかなくてはいけない宿命にある。
つまり、法人役職員の任期や異動サイクルを遥かに超えてしまうタイムスパンで、
資産運用とその管理をデザインしなくてはいけない。
当然、個々の資産運用エキスパート達の任期も軽く超えてしまうタイムスパンである
(外部からの法人内への招聘、あるいは契約ベース、のいずれの形態かの如何にかかわらず)。
現在、法人が招聘、契約している資産運用エキスパートの中には、意図的に、あるいは善意から、
(1)「他の役職員にも理解、管理できる範囲内にずっと留めること」をスキップさせようとするケースも多い。
(1)をスキップしてしまうのだから、
(2)「他の役職員にも理解、管理に関与できるよう、粘り強くコミュニケーションできること」
も同時にスキップすることになる。
例えば、アクティブ運用ファンド、オルタナティブ投資、低流動性資産(未公開株ファンド、インフラファンド、私募リートなど)に誘導しようとするエキスパート達である。
招聘か、契約しているかに関わらず、これらの投資対象は
彼ら以外、法人内の誰も基本的に理解、管理できない
(更に言えば、エキスパート達自身でさえも本当に理解・管理できているかは、実は多くの場合怪しい)。
彼らが居ないと、法人の他の誰も管理できないという「依存状態」を作りだす。
もっと、悪いことには、現在、招聘、契約しているエキスパート達も、やがて任期を終える。
いずれ、今の運用内容を管理できる後任のエキスパート達を探し、
補充し続けていかなくてはならない
(前任者の行った運用内容を、
同レベルでマネージできる後任のエキスパートを探す事や、
その運用管理体制を維持してゆくことは、実は、法人にとって大変な作業・コストとなる)。
公益法人や学校法人の資産運用は、超長期に、あるいは半永久的なものである。
法人が、
そのようなタイムスパンでの説明性、一貫性、継続性を如何に保持することができるかは、
後々の運用成果にも大いに影響する重要事項である。
だから、
法人が招聘、契約してエキスパートの力を借りようとする場合、
上記(1)(2)の条件には、十分に留意しなくてはいけない。