2021.05.06
法人資産の運用を考える(31) 1年前のコロナ・パニックを振り返る(2) この1年間、運用収入は安定的だったか? 価格下落は一時的なものだったか?
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
『今般のコロナ・パニックでは、株式市場が平均で約▲30%、
REIT(不動産)市場で約▲40%、その他国債を除く社債市場は約▲10%~▲20%も
下落した。一方で日米の国債は著しく上昇したのである。(2020年3月29日の現時点)』
これは1年前の『公益法人』に掲載していただいた
「法人資産の運用を考える 番外編:パニック時における資産運用チェック」に書いたことである。
今思えば、ウソのようにも思えるが、金融市場も、多くの法人資産運用の現場もパニック状態であった。
さて今回は、あのパニックの渦中に、資産運用の2つのチェックポイントとして指摘させていただいた、
「運用収入は安定的だったか?」
「価格下落は一時的なものだったか?」
について、各法人における資産運用の今後の知恵としていただけるよう、振り返ってみたい。
【1.運用収入は安定的だったか?】
為替仕組債、マルチアセット指数参照仕組債などに大なり小なり荷重をかけていた法人は、運用収入では期待外れの1年だったかもしれない。
最近では為替やその他の市況の回復がせめてもの救いではあるが、
前年度は利払いが無し、あるいは最低利回りしか貰えなかった、
前前年度の半分以下に激減した法人も多いのではないだろうか。
また、個別銘柄、特定業種、高配当利回りなどの特定要素に偏った、
株式やREITにも大きく期待を裏切られた法人が少なくないのではないか。
高配当狙いの投資がコロナの影響で減配。
特にホテル、運輸を含むレジャー、商業サービスの急激かつ大きな落ち込みの悪影響は
様々な業種や企業へと広がった。
偏った投資が運用収入の激減を招き、事業の軌道修正を迫られた法人も多いことだろう。
特に、母体企業株式を保有する企業系財団などでは、大きく明暗が分かれたのでは無いだろうか。
母体株式の受取配当がコロナの影響を受けなかった財団がある一方で、
既に(おおきな)減配が始まり、前年度の財団事業の軌道修正はもとより、
本年度以降の事業計画を見通すことすら難しくなった財団も少なくないのではないか
(例え現時点では、(おおきな)減配が偏在化していないとしても、
今後コロナやその母体株式に与える影響はまだまだ予断を許せないのである)
【2.価格下落は一時的なものだったか?】
社債・劣後債など(発行体にもよるが)、一時的な価格下落から
価格回復が早かったものがある一方、
株価参照仕組債(EB債=日経平均、個別株など)は
価格回復しないまま償還され、法人の財産を減らした法人もあっただろう。
また、個別銘柄、特定業種、高配当利回りなどの特定要素に
偏った株式やREITの中にも、価格下落は一時的なものかどうかは判らない、
疑わしいと思われる投資がかなり含まれている状態ではないだろうか。
運用収入の減少も伴っているのであれば、
正に、「ダブルパンチ」を喰らって居るようなものである。
そしてやはり、この点においても、
特に母体企業株式を保有する財団では明暗が分かれたに違いない。
配当金未定や無配に至るまでの受取配当金の激減も伴っている可能性も高い、
正に、「ノックアウト」あるいは「ノックアウト寸前」の状態とも言える。
更に、大事なことは、他の全ての母体企業株式を保有する企業系財団も、
これと全く同じリスクを負っているのだということを『他山の石』として欲しい。
つまり、個別銘柄(個別発行体)、特定業種、高配当利回りなどの特定要素への偏りこそ、
法人の運用収入と運用財産の価値についての問題を引き起こす根本原因
となっていることに早く気が付いて欲しい。