2021.06.01
法人資産の運用を考える(32) 1年前のコロナ・パニックを振り返る(3) 対照的な、パニック時の対応だった <A法人とB法人>のその後
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
さて今回は、あのパニックの渦中に、対照的な対応だった
<A法人とB法人>の当時と1年後の現在の状況について、
各法人における今後の知恵としていただけるよう、振り返ってみたい。
【A法人のコロナショック時の対応】
A法人は、世界の主要な金融市場と市場平均利子利回り、
配当利回りを複製するETF(上場投資信託)を使って、
グロバール株式市場、グロバールREIT(不動産)市場、グロバール債券市場に分散投資していた。
政策的な資産配分比率は、
株式市場15%
REIT(不動産)市場10%
債券市場(外貨建て)15%
債券市場(日本国債あるいは為替ヘッジ外債)60%
と予め定めていた。
コロナ・パニックでは、
株式市場が平均で約▲30%
REIT(不動産)市場で約▲40%
その他国債を除く社債市場は約▲10%~▲20%も下落した。
一方で日米の国債は著しく上昇した。
A法人のポートフォリオ運用も全体で一時▲10%を超える価格下落に見舞われていた(2020年3月29日の現時点)。
しかしながら、市場平均価格が下落したとはいえ、
何十~何千銘柄から構成される市場平均利回りや
市場平均配当利回りの支払いが停止・激減してしまう訳では無い。
金融市場の平均価格は、リーマンショック時も含めて、
浮沈を繰り返しているが、最終的には回復・復元している。
今回の価格下落も長い目で見れば、一時的なものと考えている。
したがって、世界の主要な金融市場と市場平均利子利回り、
配当利回りを複製するETF(上場投資信託)を使った
A法人のポートフォリオについても、長い目でみれば、連動して回復・復元するものと考えた。
A法人では、大きく下落してポートフォリオの資産配分比率の
小さくなった株式やREITなどを増やし、そうでない国債やその他債券を減らして、
元々決めた資産配分比率まで均衡させるリバランスを行った。
リバランスは相場観に基づくものでは無く、
政策的に決められている資産配分比率に基づいたポートフォリオ運用
におけるリスク管理のルールである。
結果的に、価格上昇して利回りの低くなった国債等の保有比率を
一定まで減らし、価格下落して利回りの高くなった株式、
REIT(不動産)、その他外債などの保有比率を一定まで増やす、ということでもあった。
【A法人の1年後】
前2020年度も運用収入は安定的なものとなった
(市場価格が下落=利回りが上昇していた時に、株式やREIT、社債などを買い増したことも寄与した)。
加えて、その後の市況回復もあり、運用資産の価値自体も大きく回復、
既にコロナ前の水準を上回っている。
2021年度の運用収入も安定を見込む(再び市況が落ち込んでも同じオペレーションを繰り返すだけである)。
【B法人のコロナショック時の対応】
仕組債、高配当利回りの個別株式や個別REIT、
劣後債を含む個別社債で運用していたが、仕組債などでは、
市況パニック=利払いの停止あるいは激減が顕在化していた。
今後の景気、個々の企業業績・信用リスクの行方しだいでは、
個々の株式、REIT、債券などの発行体にも回復困難な深刻なダメージが
出てくるかもしれなかったが、息を殺して成り行きを見守るしかない状態だった。
【B法人の1年後】
前2020年度の運用収入は、仕組債利息の減少や個別株式や個別REITの減配で、
かなりのダメージを受けた。
年度後半の市況回復がせめてもの希望であったが、
為替市場や株式市場全体の回復にかかわらず、
個別の仕組債、株式、REITの利子配当や資産価格の回復は、共にまちまちに推移している。
2021年度の運用収入も不確実性が高い状況である。